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出口治明氏が語った、「デキる上司」が実践している部下との接し方

平時にこそ、「リーダー力」が試される
ライフネット生命保険株式会社の創業者で、現代の日本を代表する知識人でもある出口治明氏。彼が「座右の書」として公言するのが、中国の古典『貞観政要』(唐の第2代皇帝である太宗・李世民の言行録)である。そこから学べる「出口流リーダー論」について語った角川新書『座右の書 貞観政要』から、「デキる上司」に求められる部下との付き合い方について、紹介する。

覚悟がなければ「指導」は難しい

貞観〈じょうがん〉時代(627~649年)の初めのころは、まだ戦乱が収まったばかりだったので、多くの群臣(家臣)は、「道徳や人格を重んずる政治では、人民を治めることはできない。法律や権力で厳しく取り締まるべきだ」と考えていました。

ですが、魏徴〈ぎちょう〉(李世民<太宗>の側近。諫言を以て補佐の務めを果たした)だけは、違う考えを持っていました。「人間の善意を信頼する政治を行うべきだ」と主張したのです。

太宗は魏徴の言葉に従い、仁義道徳(人として守るべき正しい道)をもって政治を行うことを怠らず、その結果、国内は平安に治まったのです。

1937年ごろに描かれた太宗の肖像画[Photo by gettyimages]
 

太宗は、「武器を用いなくとも平和な状態をつくれたのは、すべて魏徴の力である」と考え、魏徴の存在を次のように褒め称えています。

「宝石は、立派な素質があっても、良工(良い職人)によって磨かれなければ、瓦や小石と変わらない。私には、生まれ持った素質はないけれど、……魏徴が人徳や道徳の大切さを教えてくれたおかげで、君主としての功績を上げることができた。つまり、魏徴は良工としての価値があるということだ」 (巻第一 政体第二 第九章)

しかし魏徴は、「天下が平安になったのは、陛下の徳が国の内外に広まったからであって、われわれ臣下の力ではありません。どうして君主の功績をわが身のものとできますか」と答え、賛辞を受け取ろうとはしませんでした。