糸を手繰り寄せるように俊也に接していた

市川さんが演じた曽根亜美の義母にあたる、真由美を演じたのは梶芽衣子さん。撮影の合間、星野さんと市川さんは、梶さんからいろんな話を聞くのが楽しみだった。

「高い化粧品やエステをすっぱりやめた経験なんかを、スコーンと突き抜けたテンションで話してくださって。それこそ、ツルツルじゃない会話を、ズバズバなさるのが気持ち良くて、星野さんと2人で、『アハハ』って笑ってばかりいました(笑)」
初共演だった星野さんのことは、「ハーモニカみたいな声だなっていう印象が残っています」と語る。

「本編を観たとき、『俊也はいま何を思っているんだろう?』っていうことが、観ている人の受け取り方ですごく変わる気がしました。常に、絶妙な、なんともいえない表情をされていて……。でも俊也自身が、なんともいえない役じゃないですか。亜美としてはどう接していたか、ですか? ……私?どうしてたんだろう? あ、糸を手繰り寄せている感じがしたんですよね。初日とかは特に。家族であることも大事だけど、私も私で、これはどういうトーンなんだろうとか、いろんなものを探しながら接していました。演じる人って、もしかしたら、普段から無意識に、役のキャラクターを探しつつ、役の中に入り込んでいるのかもしれないです。人によっては違う現場で会うと、『あれ?この人こういう人だったっけ?』って印象が違うこともあります。普段からちょっとずつ役の影響を受けているのかもしれない」

「では、市川さんも無意識に亜美の中に入り込んでいたんですね?」と訊くと、例によって照れながら、「そうだったのかな、わからなーい(笑)」と首をすくめた。

「日常生活でもそうだけれど、人のためにやっていることって、結局自分のためなんですよね。生きていると、仕事でも生活でもなんでも、絶対に自分のところだけでは完結しない。“自分のため”って思ってやっていることが、気がついたら人に繋がっていることってものすごく多いので、面白いなと思います」

撮影/篠塚ようこ

『罪の声』は素晴らしいオーケストラのよう

インタビューの中で、一番多く出てきた言葉は「面白い」。自分が“役者”や“女優”と呼ばれることすらためらうシャイな彼女だけれど、自分が参加した現場や、作品そのものは独自の視点で面白がっている。

「本編を観てすごく面白いなって思ったのが、橋本じゅんさんの小栗さんへの信頼度です。お二人が普段どういうご関係なのかは全然わからないんですけど、小栗さん相手だと、橋本さんがすごく安心されているように見えて、ちょっとウキッてしてるというか(笑)。シリアスなシーンなのに、ちょっとだけコメディっぽさもあって。セリフのキャッチボールが、あのおふたりのシーンは特に弾んでいる印象がありました。人としてのウマが合うのかな? でもわからない。シンプルに、役同士の信頼感が生まれていたのかもしれないですね。

あれだけいろんな人が出てきて、いろんな人同士の会話や視線のセッションがある。だから、映画を観たあとの余韻は、オーケストラが演奏する壮大な交響楽を全身で浴びたあと、みたいな感じでした(笑)。それぞれのシーンに、震えたり、ううって嗚咽しそうになったり。私もあんなすごいオーケストラに参加していたんだと思うと、ねえー」

最後に、「取材によっても、思い出すことが全然違うんです」と言ってニッコリ微笑む。

そうして、心に市川さんの上質な手触りが残った。

(C)2020 映画「罪の声」製作委員会

罪の声
35年前――。食品会社を標的に、誘拐や身代金要求、毒物混入など数々の犯罪を繰り返した企業脅迫事件があった。犯人グループは警察やマスコミを挑発し続け、長期にわたって世間の関心を集めた挙句、忽然と姿を消してしまう。未解決事件の深淵に潜む真実を追う新聞記者の阿久津(小栗旬)と、脅迫テープに声を使用され、知らないうちに事件と関わってしまった曽根俊也(星野源)を含む3人の子どもたち。35年の時を経て、それぞれの人生が交錯し、衝撃の真相が明らかに――。原作は、元新聞記者である塩田武士のベストセラー小説。監督は『いま、会いにゆきます』『麒麟の翼』『ビリギャル』などを手がけた土井裕泰。脚本は、『逃げるは恥だが役に立つ』『重版出来!』などで土井監督とタッグを組み、『アンナチュラル』や『MIU404』も手がけた野木亜紀子が担当。
10月30日(金)より全国のTOHOシネマズ他にてロードショー

小栗旬  星野源
松重豊 古館寛治  /  市川実日子 / 宇崎竜童 梶芽衣子
(※古舘寛治さんの「舘」の漢字は正くは「舎+官」です)

(c)2020 映画「罪の声」製作委員会
スタイリスト:谷崎 彩 ヘアメイク:草場 妙子

ドレス 56,000円 スカート 29,000円 UJOH / ウジョー
問い合わせ先 M / エム 03-3498-6633