中野信子さんが考える、ネットの言語空間とは異なる「本のよい点」

人間に必要なのは、静かで温かい思索
中野 信子 プロフィール

「自称ファン」の人々

SNSなどでよくみられる、0.5秒くらい考えただけの思いつきの質問なんだろうな、という類の問いかけはさすがにもはや精読しないことにしている。

もしかしたらこうした質問をしてくる方は、単に中野と絡みたいだけで適当な質問を無理やりひねり出しているのではないかとすら思えるほどだ。

 

さすがにこんなうがった見方をするのはやや自意識過剰かもしれないと思いはするが、実際に、中野が何度も同じことを繰り返し答えているはずの質問を「ファンです〜」と満面の笑みでおっしゃる方から伺うと、いや、あなた絶対にファンではないですよね、と心の中で突っ込んでしまう……。

多くの「自称ファン」の人々から、あまりにぞんざいに扱われて、疲れているのかもしれない。どうか大目に見てくださらないだろうか。皆さんのやさしさを信じています。

いや、わかってはいる。質問をしてくださる方は答えが欲しいのではなくて、寄り添ってほしいだけなのだということくらい、百も承知だ。

けれど、私の時間も皆さんと平等に、一日24時間しかない。夫と過ごす時間も大切
にしたい。仕事もしなくてはならない。リサーチも必要だ。

一人に1分だけという短い時間しか割けず、夫と話をすることはおろか、着替えもせず、風呂にも入らず、一睡もせず、食事もせず、一度もトイレにもいかずオムツをつけっぱなしで頑張ったとしても一日あたり最大で1440人としか話をすることができない。

単純な算数だが、そういうことを考えてくださる方はどれほどいるだろう。まあ、たぶん、考えられないタイプの人が、勢いにまかせてやってくるということなのかもしれないけれど……。

静かで温かい思索

本書を手にしてくださった方には、本当は一人一人にお礼を申し上げたいような気
持ちでいる。

けれど、人間の持っている時間は有限で、それは私にとっても例外ではなく、この先、直接お会いすることは叶わないかもしれない。

だから、せめて、誰かほかの人を介するのでなく、本を介して直接、私の頭の中と皆さんの頭の中をつなぐことができればと思っている。

これなら、本が存在し続ける限り、私と皆さんとはいつでも会えるのと同じことだ。

同じ空間にいても、慌ただしい場所で出会い、言葉も満足に交わすことができずにあいさつ程度で離れ離れになっていく二人もいる。

一方で、一度も出会わずとも、深いやりとりをかわし、満足感を得られる関係もある。

本の良いところは、儀礼としての意味しかもたない言辞や振る舞いを抜きにして、本質的な思考のやり取りができる点にある。

ネットのせわしない、強迫的に思考を奪われていくような言語空間とは異なる、静かで温かい思索が、人間には必要だ。

一隅を照らす、という言葉がある。

こうして書いている一文字一文字が、闇のような世界の中で、誰かの足元を照らすことができればいいなと思っている

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