本でしか得られない大切なものとは?(photo by iStock)

中野信子さんが考える、ネットの言語空間とは異なる「本のよい点」

人間に必要なのは、静かで温かい思索
読書の秋、本を読んで新たな世界を見出す人も多いことでしょう。脳科学者・中野信子さんは、本という形式には、ネットとは異なる深いコミュニケーションの可能性があると語ります。初の自伝『ペルソナ 脳に潜む闇』(講談社現代新書)から、「本を書くということ」という一節を特別公開します。

「ちょっとヤバい人」だよね

人間の闇の部分に着目した本ばかり書いている。

タイトルのラインナップ――『サイコパス』『不倫』『脳内麻薬』『毒親』『シャーデンフロイデ』『人は、なぜ他人を許せないのか?』等々――を見れば、異様な感じを受ける人も多いのではないだろうか。

ポジティブでイケイケの、そして少しマッチョで上から目線のビジネス書が売れ筋なのだろうと個人的には思っているが、中野の著書は明らかにそれらとは異質だろう。

数少ない昔からの友人にも「出してる本の背表紙だけ見ると『ちょっとヤバい人』だよね」と苦笑されてしまった。

なぜ陰の部分にわざわざこだわって、光を当てようと思うのか本書ではその理由の一部も明かしていくことにしよう。

 

「心の理論」に大笑いされて

脳科学、ということで多くの人から人生相談のようなご質問をいただく。

ライフハック的な解決法をちょっと派手めに提示するというのが脳科学だと思っている人がほとんどなんだろうな、と思う。これはどうしようもないことだ。

メディアに出始めの頃、学術的な興味を持つ人は滅多にいないということをいやというほど思い知らされ「それは何の役に立つんですか?」という半笑いの取材ばかりを受けた。

新聞社や雑誌社によってばらつきはあったけれど、クローズドな雰囲気の強いところほど基本的な知識を押さえる手間をかけておらず、どうも話したことと違う論旨にまとめられてしまう傾向が強いというのも興味深かった。

共感性の説明では教科書の一番初めに出てくるような「心の理論(Theory of Mind)」の話を出したときに「はあ? こころのりろぉん?(笑)」と大笑いした記者の笑い声を、今でも覚えている。

心の理論(他人の心を推し量り、理解する機能)、という響きがいかにも幼稚に聞こえたのだろうか。

これは、学部生どころか、気の利いた中学生くらいなら誰でも知っているような心理学用語であるのだが……。

まあ、記者は取材対象に対して礼儀を持った対応をせずとも、組織の方さえ向いていればやっていけるということなのかもしれない。

裏を返せば、その組織は能力のある人には居づらい環境で、それなりの水準の人しか残らない、ということなのだろうと思われても抗弁のしようもない態度ではあろう。