北方謙三氏

『水滸伝』北方謙三氏が語った、現在の中国は「末期」かもしれない…

「人間の性」が詰まった4000年
『三国志』全13巻、『水滸伝』全19巻、『史記 武帝紀』全7巻――。中国の歴史を舞台とした大長編を次々と発表し、このたび旭日小綬章を受章した北方謙三氏。現在はこれも大作の『チンギス紀』を執筆中である。中国の歴史の一体何が、作家の想像力を刺激し続けるのか。「中国の歴史」全12巻の学術文庫版刊行にあたって、作家の目でみた「中国史の面白さ」について語っていただいた。
講談社学術文庫「中国の歴史」全12巻
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ドラスティックに変わる中国史

――北方謙三さんと言えば、もともとハードボイルド作家というイメージが強かったのですが、この20年あまりは中国歴史小説の大作を次々発表されています。なぜ、中国ものに?

北方 歴史小説ではまず、日本の南北朝時代を書いていたんですね。後醍醐天皇とか、非常に魅力的な人物なのですが、日本には皇国史観やら逆に反天皇の立場やら、いろいろ配慮を求められる部分もあって、けっこう書きにくいわけです。どうものびのび書けないので鬱々としていたら、「あんた、閉塞感があるだろう。中国の歴史なら自由に書けるぞ」と誘ってきた人物がいましてね。それが角川春樹氏だったんです。

それで『三国志』で中国史に目覚めて、書くにあたっていろいろ調べていくと、日本と中国のさまざまな違いに気がついた。まず国家観の違いです。

北方謙三氏

――具体的にどんな違いでしょうか。

北方 中国では紀元前300年ごろに、孟子が国家はこうあるべきだとして、「王道」と「覇道」ということを唱えるわけです。王の仁政である王道がまずあって、その下に覇者が治める覇道がある。そして覇者が乱れたときには王道が中心となって、もう一度秩序を回復すべし、というのが孟子の説いた国家観です。

しかし、こういう国のありようはやがてなくなります。秦の始皇帝の登場によって、王道と覇道が一緒になってしまう。