2020.10.25
# 植物学 # 数式

ついに解明!植物が作り出す奇妙な模様「フェアリーサークル」の謎

チューリングが見抜いた自然界のしくみ
熊谷 玲美 プロフィール

生態系における「チューリング・パターン」

そしてチューリング・パターンは、生態系にも拡張されている。フェアリーサークルの研究では、植物間の距離が近ければ助け合うが、離れていると競争するという性質が、チューリング・パターンの「反応を促進する物質」と「抑制する物質」にあたると考えられている。

西オーストラリアのフェアリーサークル内に土壌水分センサーを設置する科学者 Photo by S Getzin, University of Göttingen

化学物質の反応の代わりに、動物と環境の相互作用を考えれば、動物の生態にも応用できる。シェフィールド大学のナターシャ・エリソン氏らは8月10日、森林内でのエナガの群れの配置を、チューリングの方程式を使ってシミュレーションした研究論文を発表している※10

【画像】エナガエナガ Photo by MakiEni's photo/GettyImage

ほかにも、メキシコのコーヒー農園に巣を作るアリと、そのアリに寄生するハエの関係を、チューリング・パターンで考えた研究がある※11。変わったところでは、ギャングの縄張りについて、グラフィッティ(落書き)の分布を使い、チューリング・パターンの方程式で予測した研究もある※12

もちろん、チューリング・パターンですべて説明できるわけではない。現実はもっと複雑だ。

アフリカのフェアリーサークルでは、植物同士の自発的な作用だけでなく、シロアリが植物に与える影響も同時にはたらいているという研究が、2017年に発表されている※13。オーストラリアのフェアリーサークルにはシロアリが関係していないことが確認されているので、同じにみえるパターンでも、それぞれ細かい違いがあるようだ。

それでも、本来は数学者であるチューリングが、現代的なコンピューターもなく、分子生物学も進んでいなかった時代に、自然界のこれほど多様なパターンを説明できる理論を作り上げていたことを考えると、その知性の深さだけでなく、広さにも心を動かされる。

チューリングは、身近な生物がみせる見事なパターンに魅了され、それを数学の言葉で表そうとしたのだろう。41歳の若さでこの世を去ることがなかったら、その後も、数学と自然界をつなぐ理論を世に送り出し続けていたに違いない。

【参考資料】
※1 https://www.pnas.org/content/early/2016/03/09/1522130113
※2 https://besjournals.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/1365-2745.13493
※3 https://www.nytimes.com/2013/03/29/science/fairy-circles-in-africa-may-be-work-of-termites.html?_r=0
※4 https://gendai.ismedia.jp/articles/-/66072
※5 https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rstb.1952.0012
※6 https://www.nature.com/articles/376765a0
※7 https://science.sciencemag.org/content/314/5804/1447
※8 http://www.bcr.org/content/biological-evidence-turing-patterns
※9 dhttps://advances.sciencemag.org/content/4/11/eaau5484
※10 https://besjournals.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/1365-2656.13292
※11 https://www.futurity.org/turing-patterns-coffee-farms-ants-2232512-2/
※12 https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0378437118308604#!
※13 https://www.nature.com/articles/nature20801

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