2020.10.25
# 数式 # 植物学

ついに解明!植物が作り出す奇妙な模様「フェアリーサークル」の謎

チューリングが見抜いた自然界のしくみ
熊谷 玲美 プロフィール

天才チューリングの最後の論文

アラン・チューリングは、現代的なコンピューターの生みの親であり、人工知能研究に大きな影響を与えたことでも知られる数学者だ。第二次世界大戦中のイギリスで、ナチスドイツのエニグマ暗号の解読に取り組んだことは、映画「イミテーション・ゲーム」でも描かれている。

【写真】アラン・チューリングアラン・チューリング Photo by Heritage Images/GettyImages

しかし、暗号解読作戦は機密扱いとされたため、後に「戦争終結を早めた」といわれた仕事も、すぐには世間に知られることがなかった。1952年に同性愛で逮捕され、服役の代わりに「去勢」治療を受けさせられた後、1954年に自殺している※4

1952年発表の「チューリング・パターン」論文のタイトルは、「形態形成の化学的基礎」※5。この論文が、数学の天才チューリングにとって生前最後の論文となった。

チューリングが考えたのは、生物に現れる特定の「パターン」そのものではなく、仮想的な化学物質の「反応」と「拡散」によって、安定したパターンが生まれるという「しくみ」だ。

化学反応を促進する物質と、抑制する物質があって、反応を妨げる物質のほうが速く拡散する場合には、物質の濃度差が波のように広がって、安定したパターンが自発的に生まれる。

このしくみを、チューリングは2つの方程式で表し、それが生物のさまざまなパターンに当てはまると考えた。

高性能のコンピューターを使ったシミュレーションが可能になると、チューリングの方程式から、動物の模様にそっくりなパターンを描き出せるようになった。同じしくみでも、条件を変えることでさまざまなパターンが生まれる。

[チューリング・パターンを使ったチーターの模様の再現動画]

1990年代始めには、化学実験でもチューリング・パターンを作れるようになった。そして1995年には、大阪大学の近藤滋氏がネイチャー誌で、タテジマキンチャクダイが成長するときの模様の変化が、チューリング・パターンで説明できることを発表している※6

【画像】タテジマキンチャクダイタテジマキンチャクダイ Photo by Hal Beral/GettyImages

さらにチューリング・パターンは、体内で実際に作用する分子のレベルでも確かめられるようになった。

2006年にはマウスの毛包(毛を生み出す皮膚器官)の分布パターンについて、チューリングの考えた「反応を促進する物質」と「抑制する物質」にあたる分子がつきとめられた※7

この分子の量を変化させるとどうなるのかを、遺伝子操作マウスで実験すると、チューリングの方程式を使ったコンピューター・シミュレーションと同じ結果になったという※8

ニワトリの羽毛やサメのうろこでも、チューリング・パターンのメカニズムが分子レベルで作用していることがわかってきている※9。サメは進化の系統樹でみると、4億5000万年前に他の脊椎動物から枝分かれしている。それを考えると、チューリング・パターンというのは、生物に普遍的に存在するしくみなのかもしれない。

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