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対コロナ制圧軍に免疫の守護者「制御性T細胞」は参戦するのか

ワクチンと相互補完の治療に期待

がんや自己免疫疾患の治療の鍵を握るとされる「制御性T細胞」(Tレグ)。現在、世界中の研究者が、免疫応答を抑制するTレグを用いたさまざまな治療法や医薬品の開発に鎬を削っている。生体内の免疫機構が暴走する新型コロナウイルスに対しても、Tレグを応用する治療法の開発が進んでいる。

瞬く間に世界を席巻した謎の病原体とのTレグの関係、今後の治療法などへの展望などを、制御性T細胞の発見者である坂口志文氏(大阪大学特任教授)に伺った。

聞き手=塚崎朝子 ジャーナリスト

新型コロナウイルス感染症と制御性T細胞(Tレグ)

――2020年年明けから、人類は新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)による感染症(COVID-19)という、新たな脅威に直面しています。免疫系には試練ですが、Tレグはどのようなふるまいをしているのでしょうか。

坂口 COVID-19は、高齢者で悪化する傾向が見られていますが、加齢と共に免疫を担うリンパ球の反応性が落ちる半面、Tレグは増加してくるので、高齢者の免疫反応が抑え気味になるのは、無理からぬ面があります。

重症化例では、サイトカインストームという、言わば免疫の暴走が起こることが知られており、そこにはTレグも関わっています。

例えば、アレルギーのような慢性疾患であれば、長い経過の中でTレグが免疫反応の行き過ぎを抑え、バランスを保つような働きをします。しかし、サイトカインストームのような急激な暴走を抑えるには、Tレグは力不足です。かと言って、Tレグを除いてしまえば、サイトカインストームはさらに激しくなるはずです。

サイトカインストームには、炎症を起こすタンパク質であるIL-6(インターロイキン-6)が大きく関与しています。IL-6発見者である岸本忠三先生(大阪大学元学長)が開発にまでつなげた『アクテムラ』(一般名トシリズマブ)で中和するのが、最も有用だと考えられます。また、感染者が血栓症を起こしやすいのであれば、それを予防するような薬をさじ加減して使えばいいのではないかと思います。

【CG】サイトカインサイトカインストームをイメージしたCG画像。マクロファージ(左上)、リンパ球(中央)の周囲に種々のサイトカインが描かれている CG by gettyimages

日本の医療は、臨床医が専門性を備えており、丁寧な治療ができます。COVID-19に対して今は対症的な手段しかありませんが、地方の中小病院でも都市部の大病院でも一定レベルの治療が受けられますし、医師は最先端の知見を身に付けています。

 

免疫専門家が見た日本の"コロナ対策"

――免疫学の専門家として、日本のコロナ対策をどう思いますか。

坂口 自然に収束させようと思ったら、健康な若い人がどんどん感染して治り、集団免疫を獲得するのが早道かもしれません。しかし、そのために野放し状態にして、高齢者や基礎疾患のある一部の人が重症化するようなことはあってはいけない。クラスター対策をして感染が拡大しないように抑えていくのが、妥当ではないかと思います。

当初、発熱が4日以上続いたら受診しPCR検査を受けるという流れでしたが、それは誤りでした。最初の1週間で急激に悪化し、待機中に死亡した例もありました。早めにPCR検査をして陽性と出たら、最初の1週間ほど注意深くコントロールする。死亡者をとにかく出さないことに医療現場も集中していれば、やがて流行は収まるはずです。