金原ひとみ×燃え殻「不要不急の世界」でひっそりと叫びたいこと

負の感情との長い付き合い

金原ひとみさんと、燃え殻さん。二人は今年、初となるエッセイ集を上梓した。金原さんの『パリの砂漠、東京の蜃気楼』は、東日本大震災を機に移り住んだパリでの6年間と、東京に戻ってからの混迷の日々を綴る。燃え殻さんは『すべて忘れてしまうから』で、忘れてしまいたくない日常の出来事や出会い、宝物のようなささやかな風景を切り取った。

20歳で芥川賞を受賞し、小説を書き続けてきた金原さんと、2017年にデビューし、小説『ボクたちはみんな大人になれなかった』がベストセラーとなった燃え殻さん。小説家としてのキャリアが大きく異なる二人には、これまで何度か対談の話が持ち込まれていたという。二人に共通する「変わらなさ」をはじめ、生きづらさ、天国がもたらす憂鬱、家族とアイデンティティ、SNS、愛する音楽、コロナ禍の表現まで――初対談をお届けする。

(取材・文/砂田明子 撮影/村田克己)

金原ひとみ(かねはら・ひとみ)1983年東京都生まれ。2003年『蛇にピアス』ですばる文学賞を受賞しデビュー。翌年に同作で芥川賞、10年『TRIP TRAP』で織田作之助賞、12年『マザーズ』でBunkamuraドゥマゴ文学賞、20年『アタラクシア』で渡辺淳一文学賞を受賞。最新作『fishy』(朝日新聞出版)を9月に上梓した
燃え殻(もえがら)1973年生まれ。都内の美術制作会社に勤務する会社員でありながら、作家、コラムニストとして活躍。ウェブサイト『cakes』で連載した初の小説『ボクたちはみんな大人になれなかった』が2017年に新潮社より書籍化され、ベストセラーに
 

ストレートに「生きてえ」って

燃え殻:周りに金原さんを好きな人が多くて、なかでも、最初に出した小説(『ボクたちはみんな大人になれなかった』)の担当編集者が、めちゃくちゃ好きなんですよ。僕はもともと小説読みじゃなかったんですけど、その編集者にすすめられて、金原さんの作品をこっそり読んできました。

金原:うれしいです。そんなありがたい方がいるんですね。

燃え殻:彼女が言うには、「こんなに葛藤を抱えたまま正直に生きている人はいません」と。で、『パリの砂漠、東京の蜃気楼』は、神保町でカレー食べながら読みました。

僕は、金原さんみたいにピアスとかタトゥーを入れる勇気はない、サラリーマンとしてぼんやり生きてきたんですが、いやだな、消えたいな、っていうときに金原さんの小説はもってこいでした。金原さんが書き続けている息苦しさとか生きづらさを味わうと、ヘンなんだけど、生きようと思える。今回はエッセイだから、物語の構成や情景描写がかっちりしている小説よりも、いっそう強く行き詰まり感が出ていてストレートに「生きてえ」って思いましたね。

金原:ありがとうございます。私は燃え殻さんの最初の小説を、パリにいたときに読んだんです。在仏日本人の友人にすすめられて。異国の地から見る東京がノスタルジックでもあり、90年代の東京が描かれているので、クラブの名前とか音楽とかにハッとしたりして、掘り出されたいものも掘り出されたくないものもざくざく掘り出されるような、痛みも喜びも悲しみも詰まった読書体験でした。

今回のエッセイは、最初はすごく書きづらいなと思ったんです。燃え殻さんみたいに、引き出しがあちこちあるわけではない、狭い人間なので。

燃え殻:ないです、ないです。

金原:ありますよ。私は自分自身の話で精一杯なので、そこを少しずつ広げながら書いていった感じです。本当は、軽快なパリライフ、みたいなエッセイを求められていたのかもしれないけれど。

燃え殻:スイーツの話とかですか? パリの浮浪者に何か言われたりする話じゃなくて。

金原:そう。パリのオサレライフみたいなエッセイ。でも、それだったらもっと適任者がいるだろうし、私の書くべきことじゃないと割り切って、個人的なパリの日記、そして東京に戻ってきてからの日記を書かせてもらいました。結果的にはかなり小説的になりましたが。