Photo by Cunaplus_M.Faba/iStock

自説の証明のために「コレラ菌」を飲んだ科学者がいた!?

科学 今日はこんな日

"サイエンス365日" は、あの科学者が生まれた、あの現象が発見された、など科学に関する歴史的な出来事を紹介するコーナーです。

瘴気説 vs. 細菌説

1893年のこの日、ドイツの衛生学者マックス・フォン・ペッテンコーファー(Max Josef von Pettenkofer, 1818-1901)が自説の証明のため、自らコレラ菌を飲みました。

 

19世紀、コレラはヨーロッパを中心に大流行しており、社会に大きな影響を与えていました。

当時、コレラが蔓延している原因として瘴気説(しょうきせつ)が唱えられていました。これは、汚染された土壌からたちこめる瘴気がコレラを起こすという説で、患者と直接関わる医師がコレラに罹患しないことなどから多くの人に支持されていました。

ペッテンコーファーはこの説を発展させ、患者の排泄物内に存在するコレラ菌が土壌を汚染することで瘴気が発生しコレラの原因になると考えていました。

それに対し、細菌学者のロベルト・コッホ(Heinrich Hermann Robert Koch, 1843-1910)はコレラ菌が原因とする細菌説を唱えていました。

コレラ菌 photo by iStock

医学が発達した現代に生きる私たちはコレラ菌が原因であると知っていますが、当時は確証がつかめていない時代です。細菌説に反対するペッテンコーファーは自説の証明のために、入念な準備のもとで培養したコレラ菌を飲む実験を敢行したのです。

その結果ペッテンコーファーはコレラにこそかからなかったものの強烈な下痢に苦しみました。彼がコレラにかからなかった原因は諸説ありますが詳しいことはわかっていません。

この出来事は科学の世界では有名な失敗談ですが、ペッテンコーファーは自説に基いてミュンヘンの下水道を整備するなど近代衛生学的のもととなる活動を行った偉人と呼ぶにふさわしい人です。

彼は栄養学でも業績を残したほか、かの文豪・森鴎外が彼に師事したことでも知られています。

ペッテンコーファーの肖像 photo by Getty Images

なお、ペッテンコーファー自身はコレラに罹らなかったのは前述の通りですが、彼とともにコレラ菌を飲んだ弟子のルドルフ・エメリッヒはコレラに罹り、あわや死の寸前というところまで行ってしまいました。

師匠の危険な行いをやめさせようとしていたエメリッヒにしてみれば、とんだとばっちりだと思ったかもしれません。