朝ドラ『エール』は史実に基づくドラマのモラルを逸脱していないか?

事実はドラマよりも、ぶっ飛んでいる
中川 右介 プロフィール

昨年の朝ドラ『なつぞら』はアニメーターを主人公にしたもので、広瀬すずが演じたヒロイン「奥原なつ」は、東映動画にいた「奥山玲子」をモデルとしていた。奥原なつが働く「東洋動画」が「東映動画」なのは言うまでもない。

この他、高畑勲や宮崎駿をモデルとする人物も登場していたが、みな別名だ。

さらに、劇中に出てくるアニメも、実在のアニメを模したかたちで登場した。たとえば劇中の『白蛇姫』は実在の『白蛇伝』だし、『百獣の王子サム』は『狼少年ケン』だし、『神をつかんだ少年クリフ』は『太陽の王子 ホルスの大冒険』だ。

そして、これらの劇中に出てくるアニメは、設定などは実在の作品から借りてはいたものの、このドラマのために新たに制作されていた。

『なつぞら』は実在の人物をモデルにしながらも、完璧なフィクションであり、現実のアニメ史とは別の一種のパラレルワールドのアニメ史を描いていたのだ。

それなのに、『エール』では、古山裕一が作曲した曲なのに、古関裕而の曲を使っている。フィクションとして中途半端だ。

古関裕而の曲をそのまま使ったのは、「古山裕一作曲」の曲を新たに作る予算と才能がなかったからなのか。

それもあるかもしれないが、フィクションの作り手が現実の前に敗北しているように思う。

 

いくらフィクションとはいえ…

たまたまこの秋、『文化復興 1945年――娯楽から始まる戦後史』(朝日新書)を書いた。

この本はコロナ禍にあって、演劇や映画、音楽が興行できなくなっているなか、75年前の敗戦時も空襲で焼け野原となっていたので、興行どころではなかっただろうと思い、調べてみたことから始まった。

食糧も住む家もない人も多いはずだが、映画、演劇に空白の時期は、ほとんどなかった。映画の撮影は8月15日は休みだったが、戦中から撮影していたものがそのまま再開し、新作も9月から作られる。歌舞伎などの演劇も9月には劇場が開いていた。

文化復興、中川右介

戦後の文化再興の群像劇の登場人物のひとりが古関裕而なので、この作曲家についても調べたので、少しは知っている。だから、『エール』を見ると、現実の「古関裕而」とドラマの「古山裕一」との相違点が気になって仕方がない。

それをひとつひとつあげていくときりがないので、結論から言えば、話題になった「戦争を真正面から描いた週」は、大半がフィクションだ。