あなたの記憶にかかっているバイアスを心理科学的に検証してみた

簡単上書き、目撃者証言だって問題あり
鈴木 宏昭 プロフィール

脳に貯められる視覚情報量は、驚くほど少ない

節穴になる理由は、じつは数多くある。

まず私たちの視覚情報処理でだいじな働きを持つ、視覚情報を貯蔵する場所(視空間スケッチパッドと言う)の容量がとても少ないことが挙げられる。だいたい3〜5程度の情報しか保持できないとされている。たとえば、目の前にこの本、マグカップ、マーカー、鍵が置かれていたとすると、それらがあったことを覚えておくだけでこの貯蔵庫は満杯になる。

また3〜5の情報という時に何を単位とするかも難しい。マグカップの位置、マーカーの色、鍵の形なども情報となる。だとすると、この光景を一瞬だけ見せられた後に、それらの色や配置も含めて正確に再現することは不可能になってしまう。

眼の構造も関係している。人間の眼はカメラなどとは違い、光の受容素子が均等に網膜に配列されているわけではない。私たちの視野は約200度程度と言われているが、はっきりと認識できるのは(たとえば文字を読むなど)、中心窩(ちゅうしんか)と呼ばれる、たった数度の角度内のものだけなのだ(だいたい60センチメートル先の数センチ程度)。

【図】ヒトの眼の構造と、中心窩の位置ヒトの眼の構造と、中心窩の位置 anatomy by gettyimages

だからチェンジ・ブラインドネスのような課題では、目を頻繁に動かし、場面のどこが違うかを精査しようとする。この移動はサッケードと呼ばれているが、このサッケードの最中は視覚情報の処理はまったく行われない。そういうおまけまでついている。

動きには敏感だけれど

私たちの眼は動きに対して敏感に働くようなっている。注視している正面でなくても、横で何かがちょっと動くと、私たちはそこに注意を向けることができる、というか向けずにはいられない。これは敵とか危険なものがそばに来た時にそれを避けるのにも役立つし、(人間はそういうことはしないが)餌が近寄ってきたなどの場合にうまく捕獲することにつながるという利点がある。

そのため、変化がゆっくりなスロー・チェンジでは、いかなる動きも感じられないので、検出は困難になるのである。画面切り替え型のチェンジ・ブラインドネスでも、通常ならば画像は2つとも意識されるのだが、2画像を切り替える時に、一面グレーの画像が非常に短い時間挿入されると、初めの画像の視覚像が不安定、あるいは不完全なものになってしまい、変化を検知することが難しくなる。

 

ある視覚刺激を非常に短い時間だけ提示した場合、細部まではわからないが、何かが見えたという意識が生じる。しかしその提示の直後にそれとは関連のない画像を1秒内外提示すると、その刺激を見たという意識が生じなくなるのである。つまり最初の刺激が後の刺激に上書きされたようになる。この挿入される関連のない画像をマスクととらえ、この現象を逆向マスキングと呼んでいる。

たった1枚のグレーの画像が一瞬入るだけなのだが、その効果は甚大だ。下の2つの動画を見比べてほしい。もしこの動画を知らない人が見たら、上の方では変化の検知にほどほどの時間がかかるだろう。しかし、グレー画像が入らずに切り替わる下の動画は1度見た瞬間にほとんどの人が変化に気づくと思う。

  2枚の画像間にグレーのマスクを1秒間挿入した動画 photos by Rensink, R. A. (2005). Change blindness. McGraw-Hill Yearbook of Science & Technology. New York: McGraw-Hill.
  挿入されたグレー画像を取り除いた動画 photos by Rensink, R. A. (2005). Change blindness. McGraw-Hill Yearbook of Science & Technology. New York: McGraw-Hill.

マスク画像がなければ、変化した部分に動き(モーション)が感じられるようになるため、検知しやすくなるというわけだ。

記憶は簡単に書き換えられる

チェンジ・ブラインドネスで変化に気づかないというのは、ある意味で記憶の欠陥とも考えられる。画面切り替え型で1枚目の写真が完全に記憶されていたとすれば、2枚目を見た時に違いを検知できるはずだ。これができていないから、違いが検知されないことになる。