「お前がNG」がひとり歩きすると……

実は私はサッカーをしている娘に、「おまえ」を頻繁に使う方は近づけたくないと思っていた。小学校のコーチは、おまえなあ、と言う時もあったけど、「君たちは」とか、なになには、と、極力苗字で呼んでいた。「僕はなるべく下の名前では呼ばないようにしている。親しみは出るけど、女の子扱いする空気にしたくないんだ」と語っていた。対等であろうとしていたのだと思う。

千葉で弁護士をしている石垣祐一さんは「相手を『お前』と呼ぶ人は、心のどこかで相手を見下すような感覚を持っているのでないか」と話す。スポーツコーチをしているわけでもないのに、スポーツへの理解を深めようと、フィールドフロー主催のスポーツメンタルコーチ養成講座で暴力・暴言に頼らない指導方法を勉強しているそうだ。

「僕の中にも、『お前』というワードはありません。親から、そう呼ばれたことがないというのもありますね。小学校や中学、高校と、上下関係はありましたし、学校の先生からもお前と呼ばれた経験もあると思いますが、僕自身は使いませんね」

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ただし、「『お前はNG』という部分だけが独り歩きするのは、問題の本質が見えなくなる」と言う。
例えば「私はお前とは呼びません」と言いながら、子どもに対し理不尽な扱いや、パワハラをしてしまえば本末転倒だろう。

「お前なあ、今、どこ見てた?」と、愛情たっぷりに指導するサッカーコーチだっている。選んだ言葉以上に、呼び方や声のトーンや言い方で、指導スタイルが浮かび上がる

「『お前』はダメで、『キミ』や『あなた』ならいい、という言葉選びの問題ではない。大切なのは、なぜ、その呼び方で呼ぶのか。相手の立場を配慮して言葉を選んでいるかを常に自問自答すること。キャラクターや人柄として、『お前』という呼び方が許される大人はいるでしょう。Youと呼ぶことにした監督さん(越智さん)は、呼び方以外でも選手との関係性について工夫し、対等な関係を築いていたのだと思います」(石垣さん)。

愛相手の立場を配慮して言葉を選ぶということは、単に「お前と呼ばなければいい」ということではない。ともすると「お前」でも関係性や愛情で使われてもおかしくないことだってあるはずだ Photo by iStock

これを読んで、わが子や教え子、指導している選手に「お前と呼ばれて嫌なのかどうかを聞いてみよう」と思われた方は、注意が必要だと言う。

「子どもからすれば、『お前』と呼ばれていれば、それが普通なんだと思うでしょうし、部活動の部員となると『私はお前と呼ばれるのは嫌です』とは言いづらい。同調圧力が働くだろうし、忖度というか、コーチへの遠慮もあるでしょう。すでに上下関係がある以上、子どもや選手から出てくる答えが本音かどうかはわからないということです。ヒアリングするにしても、上下関係があることを意識したうえでやるべきでしょう」

それぞれに、素敵な名前がある。
集団なら「君たち」でいい。「お前」と呼ぶ必要はない。