中日与田監督が唱えた「お前」への異議

この論争、実は昨年すでにプロ野球の応援歌をめぐって起きている。
中日ドラゴンズの応援歌にピンクレディーのヒット曲『サウスポー』の替え歌があり、歌詞に「お前が打たねば誰が打つ」というフレーズがあったため、球団側が応援団に向け使用の自粛を求めた。与田剛監督が「お前という人に対して尊敬の念のない言葉を子どもたちが公式の応援歌として使うのは教育上いかがなものか」と異議を唱えたからだ。選手に対し「お前」は失礼だ、と。代わりに名前で呼ぶことを提案した。

2013年WBCでは日本チームのコーチをつとめた中日・与田剛監督(写真右) Photo by Getty Images

SNS上では「お前は御前であり、むしろ丁寧な呼び方」などと、「お前」の語源が指摘されたり、「いや、現在は同等か、あるいは目下の者を指すのが現実だ」などと喧々諤々の議論となった。

与田監督はこのときバッシングを受けたが、非難されること自体に違和感を抱いた。小学校では、もう随分前から教師は児童を「〇〇さん」と名前で呼ぶようにと言われている。家庭内でも、親からお前と呼ばれたことのない子どもは増えている。夫婦の関係性も同様だ。例えば妻である私に対し、夫は「お前」なんてまず呼ばない(怖いから)。共働き家庭も増えたため、女性の家庭内人権は、企業内よりは大きく向上しているようだ。

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二人称だけでなく、三人称の場合も、私は夫を「主人」とは表現しない。協働して家庭を運営しているのに、どちらかが「主な人」になるのは変だ。夫も私を「家内」と呼ばず「妻」を通している(強制ではない)。家の内に収まってはおらず、どちらかといえば「家外」と呼びたい気分だろう。無論、気にしない人もいらっしゃるだろうが、男尊女卑を想起させる言葉は居心地が悪い。
いずれにしても、呼ぶ側、呼ばれる側の関係性に、呼称は影響を与えるのだ。