2020年10月16日、パリの近くで教師が首を切られて殺害される痛ましい事件が起きた。被害者は中学の男性教師で、授業中に風刺画を見せ、それについてディベートをさせていた。それを理由に脅迫もされていたという。マクロン大統領は「これはイスラム教徒のテロと思われる。表現の自由を教えた教師がテロリストによって殺害された。国はテロリストに決して屈さない」という内容の声明を発表している。

この時期コロナ感染が再度拡大している状況を受け、マクロン大統領はパリほか8つのフランスの都市で、21時から朝6時までの外出禁止令を導入すると発表したばかりだった。期間は4週間とされているが、その意義や経済的打撃について再び物議を醸している。そこにさらにテロの恐怖が押し寄せていることになる。

そもそも、2020年9月末にパリで起きた事件により、5年前の惨劇や一連のテロの緊張感が呼び覚まされている状況だった。パリ在住の下野真緒さんが痛ましい斬首事件につながる背景をリポートする。

フランスでは厳しいロックダウン解消後、再度感染が拡大してしまった。写真は2020年10月のパリの風景で、20時すぎからレストランが混みだすフランスでの夜間外出禁止は経済的にも大打撃のはずだ Photo by Getty Images 

現「コロナ警戒」と‘15年テロ後の「緊張感」

9月25日(金)の昼過ぎに、新型コロナ関連の話題で持ち切りのフランスメディアに衝撃が走った。私自身、「旧シャルリー・エブド社前で襲撃」という文字が飛び込んできた時、5年前の襲撃ではなく現在のことなのか、思わず一瞬考えてしまったほどだ。
2015年のパリは、1月と11月にそれぞれ衝撃的なテロに襲われ、いわば暗黒の1年を経験した。メトロ、スーパー、レストラン、どこにいてもテロを恐れ、他人を見るたびにテロリストでないかと警戒せざるを得なかったのだ。

2020年9月25日の日中に起きた惨劇のニュースは、一気にフランスに駆け巡った。マスクをつけていることをみても、これは5年前のことをつたえるものではなく、2020年のことだと明らかにわかった Photo by Getty Images

今回の新たな襲撃によって、外出するたびにコロナを警戒する今の社会の雰囲気が、ちょうど5年前に経験していた陰鬱な空気によく似ていたことが思い起こされた。
ここでは何故今回のテロが起きてしまったのか、最近公判で明かされた2015年の悲惨なテロ現場を振り返るとともに、風刺画の立ち位置についても触れたい。

9月の事件は2015年テロ公判中に起きた

今回の事件は9月25日(金)の昼前、5年前にテロがあったパリ11区ニコラ・アペール通りで起きた。シャルリー・エブド社が2015年1月7日に襲撃を受けたビルの前で喫煙休憩中だった20代と30代の男女社員2名が、突然ナイフで襲われたのだ。2人は重症を負ったがそれぞれ病院で処置を受け、幸いにも一命をとりとめた。彼らはテレビ番組制作会社の社員で、同社はシャルリー・エブド社が入っていた当時も同ビルに社屋を構えていた。(「le mondeより」)

シャルリー・エブド社は風刺画を得意としている新聞社で、2001年のNY同時多発テロを皮切りにしたイスラムへの風刺画に対し脅迫もされていたのだが、それが最悪の形になったのが2015年1月7日に起きたシャルリー・エブド襲撃事件だ。イスラム過激派のテロリスト・クワシ兄弟がシャルリー・エブド本社に押し入り、編集会議に出席していた編集者、風刺画家、コラムニスト、警備にあたっていた警官ら計12名を次々と射殺していったのである。

襲撃にあったシャルリー・エブドのオフィスには、弔問の花がおおく手向けられた。写真は2015年1月23日のもの Photo by Getty Images

今回襲撃を受けた被害者の会社には、2015年の襲撃の際に5分間に渡る発砲音を聞いていた社員たちが今も在籍している。シャルリー・エブド社に関しては、2015年のテロ以降に引っ越し、その所在地は安全上公表されていない。事件後すぐにパキスタン国籍の男Ali.H(18)が逮捕され、関与が疑われるアルジェリア出身の容疑者らも数名取り調べを受けた。