『ファイター』に関しては、MVに現れる透明なガラス瓶や一輪の花といったアイテムのあからさまな象徴性も、看板めいた印象を強めている。バンプが優れた音楽家集団であることに間違いはないが、彼らの音楽に深く潜っていこうとするとどこかで張りぼての連なりにぶつかって、落胆を抱えて戻ってくる。そんな経験を、筆者は何度も繰り返して、その後でふと気づいたことがある。藤原基央は、言葉に対して強い不信感を抱いているのではないか。
藤原の詞には、以下のような表現が多発する。
羽根のない生き物が飛べたのは羽根がなかったから
『beaautiful glider』
寂しくなんかなかったよ ちゃんと寂しくなれたから
『ray』
お揃いの気持ちで離れながら お揃いの気持ちで側にいた
『ほんとのほんと』安心すると不安になるね
『時空かくれんぼ』
今並べた詞はどれも語義矛盾を含んだレトリックであり、「羽根」や「寂しくなる」という言葉の意味を無効化している。このようなフレーズの多用からわかるのは、藤原が「言葉だけでは何も表現できない」という想いを抱いていることだ。言葉への不信感を、直にリリックに焼き付けた曲も存在する。
人と話したりすると気づくんだ
伝えたい言葉が無いって事
適当に合わせたりすると 解るんだ
伝えたい気持ちだらけって事
『Supernova』
言葉で伝えても 伝わったのは言葉だけ
『宇宙飛行士への手紙』
「伝える」に達するには言葉はあまりに役立たずで、だからこそ歌や音楽に意味がある。藤原基央の基本姿勢が、ここに如実に表れている。