これは、徳島の若い革職人さんが僕のために作ってくれた名刺入れです。僕が財布を持たず、名刺入れにクレジットカードとお札と領収書と名刺を入れて使っていることを知って作ってくれました。藍で染めた革は使い始めた頃は硬かったけれど使ううちにどんどん馴染んで、今はとても使いやすくて愛着があります。藍という天然の染料人体に無害で、時間の経過とともに色が変化するのも魅力です。

深く濃い藍色に染められた名刺入れ。色、質感ともにこれも経年変化が楽しみ。財布を持たない薫堂さんは、これ一つにカードもお札も入れて使う。

そしてこのポーチ、元は白いキャンバス地でした。とても使いやすくて長年使ううちにかなり汚れてしまったのですが、これも藍で染めてもらったらすごくカッコよく生まれ変わり、また使い始めました。愛を着せるためには時間も大切な要素で、長持ちするかどうかは大きいですよね。時間の経過によって輝きを失うものは決してラグジュアリーじゃないと思うから。長く向き合っても飽きない、飽きるどころか愛着度合いが増す、経年優化で新たな魅力が生まれるものなど、愛され力のあるものがラグジュアリーなのだと改めて思います。

結果的に、フランス&日本の職人の技術力のコラボによってまだまだ使えそうなポーチ。

粋とは“和ませること”かもしれない

そして、愛され力のあるものに僕は「粋(いき)」を感じます。粋って、和ませることなんじゃないかと思うのです。ラグジュアリーなものって、それで威嚇したくなる人が多いし、そういうつもりがなくても「わあ、凄い!」「高そう!」などと思わせて、結果的に威嚇してしまうことだってあるはず。僕は、威嚇するどころかむしろ和ませたり、くすっと笑わせたりするものにこそ粋を感じて、とても愛おしくなるのです。

インタビュー後、ふと見ると、薫堂さんの事務所内にある茶室「妙庵」(みょうあん)で、くまモンたちが談笑していました。左は、映画監督ソフィア・コッポラさんが描き、薫堂さんへ贈られた作品の掛軸。

PROFILE

小山薫堂・こやまくんどう
放送作家、脚本家、ラジオパーソナリティー、京都芸術大学副学長。1964年熊本県生まれ。日本大学芸術学部放送学科在学中に放送作家として活動を開始。「料理の鉄人」「カノッサの屈辱」等、テレビ番組を数多く企画。脚本を担当した映画「おくりびと」は第81回米国アカデミー賞外国語部門賞を獲得。執筆活動のほか、地域・企業のプロジェクトアドバイザーなどを務める。また、2025年大阪万博のエリアフォーカスプロデューサーに就任。「くまモン」の生みの親としても知られる。代表を務める京都「下鴨茶寮」が『ミシュランガイド 京都・大阪+岡山 2021』で一つ星を獲得。

構成/齋藤素子
撮影/渡辺充俊(講談社)