ネギの値段はこの20年、平均するとほとんど変わっていません。肥料代も農薬代も燃料費も人件費も、みんな1.5倍にはなっているのに、小売価格だけが変わらない。本来なら、ネギの小売価格も20年前の1.5倍でおかしくないのです。これでは農家はやっていけません。
うちも初めて山形県のスーパーに出したときは3本98円でした。翌年には3本158円になり、その翌年には3本198円になった。
さらに単価を上げる大きなきっかけになったのは、2本売りにしたことでした。3本198円を2本198円にできたときに、大きなステップを踏み出すことができた。
昔から続いてきた3本セットは、いまや意味合いが薄れています。地方の大家族ならともかく、東京の核家族では、使いきれずに1本捨てている人も少なくない。そこで、2本セットで売ることを提案したわけです。
それまでの常識を打ち破ることは簡単ではありません。スーパー側は当然、反対しました。そこで、こう説得したのです。
Lサイズのネギなら、段ボール箱1ケースに45本入っています。これを3本ずつセットにすると、15セットできる。1セット198円で売るから、総売上は2970円です。一方、これを2本セットにした場合、23セットできます(うちではLサイズを1ケース46本入りで出していました)。1セット198円で売ると、総売上は4554円になる。
まったく同じ1ケースのネギが、何本で束ねるかで、売上は53%もアップする。「おたくにとっても得になる話なんだから、試すだけ試してみてよ」と。結果はすぐ出ました。なんの問題もなく売れた。
小売価格をいきなり1.5倍にすることはできません。3本298円では、消費者から拒絶されたでしょう。でも、値段は198円のままで2本セットにしたら、実質1.5倍の値上げでも受け入れられた。これまでより品質のいいネギだと消費者が納得してくれれば、文句が出ることはないのです。
スーパーの売上が5割増するわけですから、うちの卸値も少し上げてもらう。これで利益が増えました。ネギの値段が1.5倍になって、ついに原価の高騰に追いついた。2本セットに変えるだけで、20年間の遅れを一気に取り戻せたわけです。