ミュージアムと脳は似ている!中野信子さんがそう考える深い理由

「美」は人類にとって必要不可欠です
中野 信子 プロフィール

ミュージアムの扉が開き始めた

2020年、新型コロナウイルスのパンデミックにより、世界中の美術館や博物館が扉を閉じていたさなかに、創立150周年を迎えたメガ・ミュージアムがすごいことをしかけてきた。

Nintendo Switch『あつまれ どうぶつの森』(通称『あつ森』)は、外に出ずにたやすく楽しめるということで、本年(2020年)、人気の高まったゲームである。仮想ゲームの世界でタヌキさんやキツネさんの力を借りながら自分の暮らしをクリエイトしていくという、なんとも人をほっこりさせる世界観のゲームで、国内外の2000万を超える老若男女が参加しているという。

 

このゲームの制作側にニューヨークのメトロポリタン美術館が正式参入したのである。ゴッホでもピカソでもクリムトでも北斎でも、ゲームの参加者はメトロポリタンミュージアムの収蔵品のなかから好きな絵画を取りこんで、仮想マイホームに飾ったり、コレクションしたりしてその暮らしを豊かにすることができるのだ。

「あつ森」に参入したメトロポリタン美術館(photo by iStock)

確かに本物ではない。しかし、こうしてゲームを通して作品に触れることで、作品にも、作家にも、そしてミュージアムにも親しむことができる。

こうした体験は、作家や作品への理解をより深めるだろう。いずれバーチャルではなく本物の作品に会いに行きたくもなるだろう。長じて彼らはアート界のよき理解者となり、観客ともなり、スポンサーともなるだろう。

脳に効く「美」を求めて

さて、新型コロナの波がいったん収まり、閉ざされていたミュージアムの扉がようやく開き始めた。要・不要でない生の本質にもう一度ふれるために、今こそミュージアムが必要とされる時である。

ウィズ・コロナの新しい生き方を模索し始めた今こそ、私たちに必要な、脳に効く「美」を求めて、ぜひミュージアムに出かけてみてはいかがだろうか?

実は、ミュージアムは「美」が展示されているだけの場所ではない。知れば知るほど、とてつもなく奥が深い世界なのだ。人類の記憶のアーカイブに潜っていくような、(良い意味での)妖しさ、ヤバさがある

東京藝大には大学美術館があるが、大学美術館准教授の熊澤弘先生はいわば「ミュージアムの達人」で、世界のミュージアムの成り立ち、展示、ミュージアムの持つ資料から博物館学の実習に至るまで、私が教えを乞うている先生の一人である。

ここからは熊澤先生の力をお借りして、仮想ゲームのミュージアムよりも、リアルなミュージアムこそがはるかに熱いのだ――ということを読者の皆さんと一緒に体験していきたい。言ってみれば、探検家・中野信子が、案内人・熊澤弘先生とともに、ミュージアムの深遠なる魅惑の世界に分け入っていこうというわけだ。

この「探検本」を読み終えるころ、読者の皆さんは、世界各地のミュージアムの歴史やそこに所蔵された作品の面白さはもちろんのこと、その舞台裏で静かに働いている学芸員の役割やアートの鑑賞術などの基礎知識も身につけているはずだ。

ミュージアムは、入る前と後とで物の見方が変わる体験ができる場所だと思うが、この基礎知識を身につけることで、ミュージアムに行く体験自体がこれまでよりもより深まるかもしれない。

また、ミュージアムに行くと、自覚されるかどうかにかかわらず、人間のなかで必ず化学反応が起こる。その明日の自分には変化が現れないかもしれない。けれど、3年後、10年後のあなたは必ず変わる。

本書を読み、ミュージアムを訪れて、どうかミュージアムの不思議な力を体感してみていただけたら、と思っている。