韓国、そして日本でもベストセラーとなった小説『82年生まれ、キム・ジヨン』の映画版が先日公開となった。女性が感じている“空気のような男女差別”を映像化した本作について、SNSでは早くも共感の声が集まっている。

しかしその一方で、映画版では主人公の夫が“理解ある優しい人”として描かれるなど、原作のもつ批判性が薄められているのではないか、と指摘する声もある。映画ライターの稲田豊史さんも、そう感じた一人だ。映画版における改変の何が問題なのか、稲田さんに考察してもらった。

※本記事には原作と映画の結末に触れている箇所があります。

映画版キャッチコピーへの違和感

韓国で2016年に出版されるやベストセラーとなり、韓国フェミニズム・ムーブメントの中核的存在となった小説『82年生まれ、キム・ジヨン』が映画化された。

原作は、幼い娘の母であるキム・ジヨン(82年生まれの韓国人女性の中で、もっとも多い名前)の生い立ちを、ある男性精神科医のリポート形式で追いかける物語だ。男性優位が幅をきかせる韓国社会において、女性がいかに――人生のあらゆる局面において――社会的不利益を被っているか、いかに韓国の男性たちによる女性嫌悪(ミソジニー)が根強いかを徹底的に告発する、“被害報告書”のような内容である。2018年には邦訳版が刊行、「日本の状況も大差ない」ことを多くの読者に再認識させたことも、記憶に新しい。

その映画版キービジュアルが公開された時、筆者は大きな違和感を抱いた。凛とした眼差しの主人公キム・ジヨン(チョン・ユミ)と、彼女を優しく見守るジヨンの夫・デヒョン(コン・ユ)。添えられた日本語キャッチコピーは「共感と絶望から希望が生まれた」「大丈夫、あなたは一人じゃない。」

原作を読まれた方ならおわかりだろうが、『82年生まれ、キム・ジヨン』に共感や絶望はあるが、希望はない。“大丈夫”な要素など、ひとつもない。そして夫デヒョンは(他の男性登場人物と同様に)ほとんど内面が描かれないし、最後の最後までジヨンの理解者ではなかった。