2人の女性はネットでバッシングの対象に

ドアンとシティの弁護団が真相を解明する裁判の行方を追う様子はフィルム・ノワールのようにスリル満点で、ドキュメンタリーとは思えぬほどだ。本記事ではあえて事件や裁判の詳細を避けるが、ドアンとシティは最後にはそれぞれの国に帰ることができた。しかし2人を待っていたのは、ネットでのバッシングや誤解だった。「セレブ気取り」「人殺し」という言葉が容赦なく彼女たちに浴びせられた。

そんなドアンとシティと今でも連絡を取り合うという監督に彼女たちの現在を聞いてみた。

「2人とも非常に純粋で、素晴らしい女性です。面白いことに、女優になりたいドアンのほうが物静かで、シティのほうが明るくて話好き。ですが、彼女たちはもう元の生活には戻れないでしょう。あの一件で人を信じられなくなったし、現実がどんなにひどい世界かということを知ってしまった。それでもドアンはまだ都会に住んでいるからマシですが、シティは故郷の小さな村に戻ったんです。そこでは誰もが彼女の過去を知っています」

そして監督は最後にこう言った。「この事件が映し出す闇は、若い女性が搾取され消費されるだけでなく、“被害にあっても非難”されるという現実です」。

劇中、シティが働いていた縫製工場の乱雑な部屋や不潔なトイレが映し出される。豊かな国に住む私たちを飾る服を作るために、劣悪な環境で働く人々がいるのだ。そして、そんな人々のなかでもとりわけ若い女性は利用され食い尽くされてしまう――。ドアンとシティを愚かだと思う前に、本作で彼女たちを取り巻く現実を観てほしいと思う。

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配給:ツイン