搾取される若い女性たち

シティ(左)とドアン/『わたしは金正男を殺してない』より

映画は実行犯のドアンとシティの人生を辿る。ベトナムの農村からハノイに上京したドアンは大学で会計を学ぶが経理の仕事に就けず、パブの接客業やモデルの仕事をしていた。彼女には女優になって有名になりたいという夢があった。実際に、当時東南アジアで大流行していたイタズラ動画のサイトや、オーディション番組にも出演していた。

かたや、シティはインドネシアの村の貧しい家庭に生まれ、小学校を終えるとすぐに働かなければいけなかった。ジャカルタで勤めた縫製工場では朝から真夜中まで働きづくめだったが、雇い主と結婚。17歳で息子を出産するが離婚し、子供は夫の父親に奪われてしまった。食いつなぐだけで精一杯だった彼女はよりよい仕事を探しにマレーシアの首都クアラルンプールへ行く。結局、生活のために性風俗の仕事をするしかなかったが、嫌々ながら仕方なく働いていたという。

「事件を紐解いていくうちに、この事件に潜む本当の闇が浮かび上がってきました。それは、この世界では若い女性が搾取されている、ということ。ソーシャルメディアでスターになれる時代において、SNSを餌に社会で弱い立場にいる若い女性を釣るのはたやすいのです」

ドアンとシティは自分らしく生きられる人生を求めて都会へと向かった。しかし、そこで待ち受けていたのは、彼女たちを搾取し消費する非情な世界だったのである。

北朝鮮の工作員たちは、彼女たちの信頼を得るために実に巧妙な手口を使った。彼女たちにコンタクトしてから2ヶ月もの間、実際に何本かのイタズラ動画を作ってSNSに投稿し、これが本当の仕事だと思わせたのである。と同時に、これは何も知らない彼女たちを訓練する目的でもあった。