トランプ大統領にかき消された金正男暗殺事件

ホワイト監督がこの事件を知ったきっかけは、「金正男暗殺事件の語られざる真実」という記事を書いたジャーナリスト、ダグ・ボック・クラークと話したことだった。たくさんのドキュメンタリー制作会社からこの記事を映画化したいと打診されていたクラークは、その件についてホワイト監督に相談したかったのだという。だが、ホワイト監督は彼と話すうちに自分が作りたいと強く思うようになった。

その理由は2つあった。まずひとつには、この事件の結末が多くの人に知られていないこと。

これほど異様な暗殺事件なのになぜ、アメリカで大きく報道されなかったのか。それは、事件が起きた2017年の2月はトランプ大統領が就任したばかりで、どのメディアもトランプ大統領にかかりきりになっていたからです」(ホワイト監督、以下同)

確かに日本でもこの事件は報道されたが、実行犯の女性たちを最後まで詳しく追ったニュースはそれほどなかったように思う。

そして、もうひとつは、クラークの記事を読むうちに「この女性たちはスケープゴートなっているのかもしれない。そうだとしたら、なぜ彼女たちが選ばれたのか。なぜ、プロの暗殺者を雇わなかったのか」という疑問だ。

マレーシア検察により、公判続行が決められた直後のドアン/『わたしは金正男を殺してない』より

監督とスタッフら真相を求めてマレーシアに赴くと、そこで2人の女性の弁護士団から証拠の数々を見せられた。また独自でも調査を行った結果、監督らは女性たちが無罪だと確信したという。