トランプが支持される理由とは?(Photo by gettyimages)

世界は、「新世界」という新たな身分制社会になだれ込んでいる!

「自由」を解消する方向へ進化して
私たちが生きている世界は、どのような原理で動き、どのような未来に向かっているのでしょうか? 哲学者の西谷修さんは最新刊『私たちはどんな世界を生きているか』(10月20日発売)で、自由や平等といった富がテクノロジーの進化によって失効してしまい、新たな身分制社会に世界は変わってきたと語ります。その理由を、最新刊の「はじめに」から読み解いていきましょう。

行き先が不透明

いつの時代にも、今は過渡期だとか、転換期だということが言われます。今もそうなのですが、なかでも現代の特徴は、その行き先が不透明だということです。ひとことで言えば、未来が見えない、あるいは掠(かす)められている、というのが特徴でしょう。

日々の生活をとりまく社会的な問題、よく言われる少子高齢化や、医療費増大などに絡んだ福祉の問題、それから、経済の長期低迷の中での雇用の問題、子供たちの教育のことなどが、視界を遮る雲のように目の前を覆っているわけです。

そして、そんな状況にいたっている社会は、一体どんな原理が導いているのかと考えてみると、産業経済のシステム、それを動かすエネルギーの問題、また人間の生活のあり方を変えてゆくテクノロジーの問題などがあります。テクノロジーは人間生活の便利さや効率を実現するだけでしたが、今では人間そのものを改変するという段階に入っています。

そんな問題にどう向き合ったらよいのか、どのように対応したらよいのか、ということが問われているのです。そしてこれまでの構えからすると解答がない、あるいは「解答」の幻影に誘われて流されてゆく。それが前を向いているのか後ろを向いているのか、もはや分からない。

そういう意味で、今は非常に不確定な、先の見えない時代です。

 

超富豪たちの夢

しかし、そんな不安には我関せずと、万能の杖のようにまずIT(情報テクノロジー)化が進んでいます。IoTとかAIを社会の中にうまく取り入れると、高齢化社会も、過疎地の問題も解決して、すばらしい社会になるといった展望です。コロナ禍もそれを加速する機会のようです。

けれども、それは本当に納得できるでしょうか? 

明るく描かれる未来はいわばバーチャル・フューチャーであり、ほとんど絵空事のようです。そこにどんなバニシング・ポイント(消失点)が埋め込まれているかわからないから、その展望に安心はできません。地球温暖化とか核廃棄物処理といった、生活のレベルを超えた問題もあります。解決すべき課題はあまりに大きく、そんな将来のイメージが全般的な対応には全くなっていないということです。

とくに気になるのは、今の世界をある意味で象徴するのが、ビル・ゲイツやジェフ・ベゾス、ザッカーバーグといった歴史上類を見ないほどの圧倒的な富豪たちだということです。

これは何を意味しているのか。現代世界の変容を導き、文明の未来を先取りするとみなされるような人たちが、私的に巨額の富を築く一方では、世界中に悲惨な貧困や荒廃が広がっているということです。

もちろんビル・ゲイツは、チャリティ精神を発揮して、富の一部をアフリカの子供たちの支援とかに使っていて、その行動が成功する人間の手本にもなっています。

マイクロソフトの創業者、ビル・ゲイツ(photo by gettyimages)

しかし、そこで見えなくなっている事実は、今やグローバル世界で誰もがそれに頼らざるを得ない仕組み、社会のコミュニケーション・ベースそのものが──それは本来、誰もが享受できるべきものです──、途方もない私財を生み出すものになっているということです。この大地や海や空が、商品化を思いついた者の独占所有物になるかのように。

たとえばAmazonは、単に包括的なネット販売網であるにとどまらず、それを元にして広範な製造業をもコントロール下におき、経済活動から利潤が生まれ配分されてゆく仕組みを、バーチャルに一元化してしまいました。

誰もがそれぞれの環境のなかで「便利さ」を求めるから、それに応えるということで膨大で「フラット」なプラットホームができ、あらゆる段階の利潤が吸い上げられるという仕組みです。そしてそんな展開の立志伝中の人物が、最も成功しかつ世界に貢献した人として仰ぎ見られ、未来をつくるビジネス人間のモデルともみなされているのです。

コロナ禍のさなか、イーロン・マスクのスペースX社が、NASAから新技術で宇宙ステーションに人を送り込みました。もはやアメリカという国家さえ、資金の問題でできなくなった事業を、私的な企業が「人類に夢を与える」として引き受けているのです。

イーロン・マスクは電気自動車で有名なテスラ社のCEOでもある(photo by gettyimages)

マスクは、電気自動車をロケットに積んで宇宙に飛ばし、火星移住計画のような「夢」を提案していますが、その「脱出」の夢の背後には荒廃する人類世界が残されるのかもしれません。それが未来のパイロット・イメージとして社会に投げかけられているのです。

要するに、19世紀、20世紀を通して近代文明が発達し、それが世界に展開して、多くの人びとがより豊かになってきたことを、次元を超えて単純化し、個人化されたモデル、プライベートな「自由」で引っぱるといった方向づけが働いているわけです。