「ランナーである以前に、私はレディーでありたい」
1988年、ソウルオリンピックの三種目で金メダルを獲り、三冠を果たしたアメリカのスプリンター、フローレンス・ジョイナーはこう語っている。
長い爪に真っ赤なくちびる、引き締まった体でピッチを駆け抜け、観客を魅了したジョイナー。彼女が作った記録、女子100メートル走の10秒42と、200メートル走の21秒34は、32年間経った現在でも誰も追いついてはいない。
ジョイナーの奇抜なファッションは、これまで地味な印象が強かった陸上競技のイメージを華やかな競技へと変えた。
トレードマークのネイルは、クラウチイングスタートするには邪魔なのでは? と思うほど長く、ラインストーン入りのカラフルなアートなどが施されていた。
またユニフォームも右足半分だけがスパッツになったものや、頭までぴっちりと覆われたものなど、いままでにないファッションで見る人を驚かせ、当時ジョイナームーブメントを巻き起こした。
そんなジョイナーだが、喝采さめやらぬなか五輪翌年に、29歳の若さで突如引退し、アスリートの表舞台から去る。その背景にはドーピング疑惑があった。
同じくソウルオリンピックの男子100m走で、金メダルを獲ったカナダ国籍のベン・ジョンソンが当時の絶対王者であったカール・ルイスを破り、9秒79の世界新記録を樹立。しかしその後の検査によって、メダルがあっさり剥奪されたのだ。