インドネシアの黒歴史「薔薇チーム」元隊員抜擢人事に非難噴出の背景

次期大統領候補の国防相に人権弾圧疑惑
大塚 智彦 プロフィール

「過去は不問」がジャワの伝統だが

2019年の大統領選に立候補したプラボウォ氏に対しては、1998年の活動家誘拐事件で依然として行方が不明となっている活動家の家族らが会見して事件の真相解明を求めると同時に「人権侵害事件の関与が濃厚なプラボウォ氏への投票はやめよう」と“落選”を呼びかけたこともある。

〔PHOTO〕Gettyimages
 

国際的な人権団体であるアムネスティ・インターナショナルは今回の国防省人事に関して「人権侵害事件の真相解明を訴えたジョコ・ウィドド大統領はその容疑者を法廷ではなく政府要職に送りこんだ。彼らは軍内や政府部内の要職につけるべきではない」と批判。その上で「こうした免責の文化を残すべきでない」と断罪している。

インドネシアでは圧倒的多数派であるジャワ人(総人口約2億7000万人の約40%を占める)の伝統的習慣、文化として「反省している人、現職を離れた人の過去は問わない、死んだ人は悪く言わない」という不文律があるといわれている。

このため1998年に辞任するまで32年間の在職中、巨額の不正蓄財が指摘されたスハルト元大統領に対する辞任後の訴追も中途半端に終わり、死去後は「インドネシア開発の父として英雄の称号を与えるべきだ」という議論がいまだに堂々と繰り広げられるのだ。

そうした“免責、寛恕の文化”がインドネシア社会の潤滑油となって作用していることは否定できない側面もある。しかし「薔薇チーム」によって未だにその行方が不明となっている活動家13人の家族が抱き続けている悲痛な思いを踏みにじる今回の人事は、「ありえない暴挙」として同じジャワ人でもあるジョコ・ウィドド大統領への批判に繋がっている。

「温厚な性格ではっきりとノーを言わない」のがジャワ人の特徴といわれているが、今回の人事に対してはジョコ・ウィドド大統領ははっきりと「ノー」というべきだろう。