通大寺の本堂

津波で家族を喪ったことに耐えられなかった男性の霊

津波が生んだ霊体験⑦
宮城県の古刹・通大寺では、人間に「憑依」した死者を成仏させる「除霊」の儀式が今も行われている。30人以上の霊に「憑依」されたことのある高村英さんと、その霊を成仏させた通大寺の金田諦應住職。二人に取材を続けてきたノンフィクション作家の奥野修司氏が、3・11で家族を喪った男性の霊の話を、高村さんに聞いた。

関連記事>「宮城県「通大寺」金田諦應住職に聞く」第1回第2回

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語られざる「震災の真実」

前回で「弟の手を離した女の子」と一緒に他の霊も除霊するつもりが、女の子を成仏させるだけで除霊する側が疲労困憊してしまい、それ以上はできなかったと述べたが、この日は、残した50代の男性、妊婦、そして犬1匹の霊3体(位ともいうらしい)をいっぺんに除霊してもらう予定だった。

かつて金田住職から話を聞いたとき、除霊の儀式は1ヵ月に1回程度の割合で行っているように思ったのだが、どうもこの時期は1週間に1回どころか、2回も3回もやっていたようだ。1回の儀式ですら「あのときは死ぬ思いだった」と金田住職が語っていたほどだから、相当の体力や精神力が失われたはずである。おそらくこの時期の金田住職は、体力的にも限界に近づいていたのではないだろうか。

一方の高村さんは、数日前から犬の霊と暮らしていたそうで、ドッグフードの匂いを嗅ぐと食べたい衝動を抑えきれないのが恐ろしく、「犬になるのだけは嫌だな」と思いながら通大寺にやってきた。

居間に通されると、すでに金田住職と親しい僧侶たち数名が待っていた。金田住職にとって、高村さんのように数多くの霊に憑依されたケースは初めてだったようで、「英ちゃんのは病気じゃない。(震災で)これだけの人が亡くなったのだから、こういう現象があっても不思議ではない」と言ったものの、やはり一抹の不安があったのかもしれない。ただそれ以上に、現場にいる宗教者たちに「震災の真実」を伝えたいと思いが強かったのだろう。

居間で傾聴が始まった。金田住職の服装はまだ普段着だ。

居間で憑依した人の情報を聴き取り、本堂で完全に憑依させて除霊(浄霊)の儀式を執りおこなうという流れはこの時分から出来上がりつつあった。

通大寺の本堂

居間で金田住職からいろいろと問われ、それに答えるために彼女は憑いた霊を「霊視」したのだという。ぼくには「霊視」というのがどういうものか分からないが、高村さんはこんなことを言った。

「普段、私が行っている霊視は『あなたのそばに男性の霊がいて、どこそこに行ったときに連れてきたのでしょう』といったように、それほど詳しくなくてもいいので深く考えてやるわけではないのです。でも、通大寺の居間で行うのは違います。住職さんが状況を把握しやすいように、彼らの亡くなった経緯やどうしてこの世に未練があるのかなど、深く正確に把握するための霊視なのでとても体力を使いました。なぜなら、住職さんたちの儀式は『亡くなった方たちに死を受け入れてもらい、その苦痛から解放され、光の世界(死後の世界)に行ってもらう』ためなので、どんな人物なのかをきちんと把握しないと儀式に移れないからです」

自分に憑いた霊について、居間で金田住職に説明しているうちに、高村さんは次第に憑依状態になったようで朦朧とし始めた。

なんとか自分の足で歩けるうちにと、両脇を支えてもらいながら本堂に向かうが、本堂の敷居をまたいだ瞬間、失神したように頭から畳に倒れた。

そこへ、金田住職が袈裟に着替えて本堂へ急ぎ足でやってきたが、そのときはすでに完全に憑依されていたという。