「津山三十人殺し」の生き残りが語った、大量殺人鬼・都井睦雄の素顔

真っ先に、祖母を惨殺した理由
石川 清 プロフィール

「『(自宅まで)箪笥の片づけに来てくれ』と嘘をつかれて、行ったら押さえられた…みんなに嫌われたのが辛かったんじゃろうな…」

この時、ゆり子はなんとか睦雄の毒牙から逃れたという。

また睦雄の襲撃からからくも逃れたときの様子について、ゆり子は次のように語っている。

「中の間(部屋)から(睦雄は)入ってきたんで、(わたしは)奥の間(部屋)から飛び出た。(睦雄は)夜でも見えていたんじゃあ。本家へ逃げて(その戸を)トントンやったら、本家のおじさん(茂吉)が入れてくれた。畳の下にむしろを敷いて隠れたんじゃあ」

この茂吉家が5軒目の被害者となった。ゆり子はこの家の母屋に駆け込んだのだが、茂吉はその後戸締りをしたため、母屋にいた5人は襲撃を免れた。ただ、隣の離れに寝ていた茂吉の父の孝四郎(84)が犠牲になった。

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襲い掛かる睦雄に対して、孝四郎は危険を省みず素手で挑み、銃弾二発を胸部と心臓部に撃ち込まれるまで抵抗し続けたのだ。孝四郎は左手で睦雄の日本刀につかみかかり、その動きを止めたと思われる。遺体に残されていた左手の傷の激しさが、格闘の凄まじさを物語っていた。

生前の孝四郎は睦雄の将来を心配し、就労や結婚を勧めて、相談に乗ろうとしていた。睦雄は茂吉家に対しては何の恨みもなく、もともとターゲットではなかった。しかし絶対に許せないゆり子が逃げ込んだことで、凶行はこの家にまで及んだのだ。孝四郎老人の奮闘もあって、母屋の5人は睦雄の襲撃から生き延びることができたのである。

睦雄はゆり子の殺害をあきらめ、6軒目の寺井好二宅を襲った。家には寺井好二(22)と母親のトヨ(45)の2人が寝ていたが、睦雄は銃弾で仕留めた。睦雄はトヨに金銭を払って、しばしば性的関係を結んでいたが、彼女は睦雄を捨てて村の分限者(裕福な人)に乗り換えていた。