知的障害者はセックスしてはいけないのか?

タブー視される「知的障害者と性」
門下 祐子 プロフィール

「性の権利」を尊重されない知的障害者

ところで、「知的障害者」と聞いて、あなたはどんな人物を思い浮かべるだろうか。

コミュニケーションが難しい、自分の意思で動くことができない、あらゆる場面で支援が必要、外見は大人なのに中身は子ども、幼く可愛らしい、素直で従順、守ってあげなくてはならない、等々。

どこか差別的な気がして、「知的障害者」と口に出すのも憚られる、どのように接すればよいか分からないし、ほとんど関わりがない存在。ましてや、彼らが「セクシュアリティ」とどのように向き合っているのか、知る人はほとんどいない。障害があっても同じ人間とは言いつつ、

「知的障害者はセックスしないでしょ」

「知的障害者にセックスさせたらダメだよね」

「知的障害者に性教育なんて必要あるの?」

そう考える人も少なくないかもしれない。

「知的障害者はセックスしてはいけないのか」という問いに対する答えは、もちろん「NO」だ。

障害の有無や障害の程度に関わらず、「人は誰も、楽しめて満足できかつ安全な性的経験をする可能性を含め、セクシュアリティに関して、望みうる最高の性の健康とウェルビーイングを享受する権利(世界性の健康学会「性の権利宣言」改訂版2014より)」を有する。

もちろん、人間の性の営みは、セックスを挿入行為ありきと捉えた狭義なものではなく、肌と肌とのふれあいや広範なコミュニケーションに基づくものであり、多様であることは言うまでもない。

私たちは、多様な性を生きるひとりであり、誰ひとりとして同じ人間はいない。いわゆる「知的障害」の特性はあったとしても、彼らを決して一括りに捉えることはできないだろう。そうであるならば、セクシュアリティの話題においても、「知的障害者」を強調する必要はない。

しかし、あえて本稿のタイトルを「知的障害者はセックスしてはいけないのか」としたのには理由がある。とりわけ知的障害者が「性の権利」を尊重されているとは言えない現状があるからだ。

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日本には108万2000人の知的障害者がいる(内閣府,2019)。これは、人口1000人あたり9人という計算である。複数の障害を併せ有する人もいるので、単純な合計にはならないし、あくまで療育手帳を保持している人数でしかない。

知的障害を伴う自閉症や肢体不自由のある人もいれば、見た目には障害があることがほとんど分からない軽度の知的障害者もいる。成人になって、なんらかのつまづきやトラブルをきっかけに、実は知的障害があると診断されることもある。一般的な解釈よりも、もっと幅のある存在だと捉えて良いだろう。

さらに、知的障害者は、2011年と比較すると約34万人増加している。これに対し内閣府は、「以前に比べて知的障害に対する認知度が高くなり、療育手帳取得者の増加が要因の一つ」との見解を示している。

 

認知度が高まったとはいえ、書店には「発達障害」に関する書籍は数多く並ぶなか、「知的障害」に関する書籍を目にすることは非常に少ない。さらに、社会的には多くの課題が山積しているにも関わらず、知的障害者におけるセクシュアリティに関する研究が十分に蓄積されているとは決して言えない状況だ。