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翻訳科学監修の山崎氏が解説!『メメント』と『テネット』の深い関係

時間反転対称性とエントロピーの不思議

クリストファー・ノーラン監督の全世界待望の最新作『TENET テネット』が、ついに日本公開の時を迎えました! さっそく映画館に駆け込んだ方々からの「私はいったい何を見たのだ?」「もう一回テネッてくる」といった衝撃「!」と混乱「?」に満ちた感想が、SNSを埋め尽くしています 。

私は『TENET テネット』の翻訳科学監修を務め、公開に先立って5回視聴した結果を100ページの科学解説プレゼンにまとめ上げていました。やっと皆さんとこの気持ちを共有でき、孤独な戦いから解放されました。

本記事では、前回の『インターステラー』編に引き続き、『TENET テネット』の原点とも言われる『メメント』に触れながら、時間に関する科学を説明していきましょう。

それは、時間の迷宮『TENET テネット』から脱出するためのヒントになる……かもしれません。なお、『TENET テネット』本編の予告編以上のネタバレは一切ないのでご安心ください。

似て非なる、時系列の「逆転」と時間の「逆行」

クリストファー・ノーラン監督を一躍有名にしたのは『メメント』というマイナーな映画です(『TENET テネット』の日本公開を記念して、『メメント』が渋谷のミニシアター「CINE QUINTO」にて期間限定で蘇りました)

普通の映画や小説には時間に関する暗黙のルールがあります。それは、時間の順番にそって過去から未来へストーリーが進むというものです。世の中には、過去の原因があって、未来の結果がある、という「因果律」があります。だからこそ、「一体どうなるのだろう?」というハラハラドキドキしたストーリーが楽しめるのです。

ところが、ノーラン監督はこの時間に関する暗黙のルールを吹き飛ばしました。なんと、映画のシーンの時系列を逆転し、オープニングに未来のシーン、エンディングに過去のシーンを持ってきたのです。これにより見かけの因果が逆転し、先に未来の結果が目の前にあり、後から過去の原因がわかります。

そうすると、「一体何があったのだろう?」という過去を読み解いていくスタイルになります。しかしながら、これは映画編集の演出に過ぎず、映画中の物理的な時間が実際に逆行しているわけではありません。

『メメント』公開時のクリストファー・ノーラン監督(中央)、ジョー・パントリアーノ(左)、ガイ・ピアース(右) Photo by Fred Hayes/WireImage/gettyimages
 

一方で、予告編によれば『TENET テネット』のテーマは時間の逆行だとされ、逆再生したかのような「逆行する弾」や「逆行する車」が何度も登場します。だとすると、これは映画編集の演出にとどまらず、映画中の物理的な時間が実際に逆行していると考えて間違いありません。

このように、似て非なる『メメント』と『TENET テネット』ですが、『メメント』の中に『TENET テネット』を考えるうえで大きなヒントになるシーンを発見しました。冒頭のわずか1分間のシーンです。