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謎に包まれた「特命官僚」が、令和改元の裏で暗躍していた…!

元号研究官の「T氏」とは何者か?
2012年2月、当時の天皇が心臓バイパス手術を受けるため入院している最中、謎の内閣府職員が新元号選定のために暗躍していた。彼の名は尼子昭彦。元号に関する業務を専門的に扱う特命官僚「元号研究官」である。毎日新聞記者の野口武則氏は、尼子氏の謎にあと少しまで近づくも、直撃取材前に彼は亡くなってしまう。そのときすでに、令和改元に向けて二代目の元号研究官「T氏」が動き始めていた…。野口氏の新刊『元号戦記』から、謎多きT氏について紹介する。
 

突然、勤務先から消えていた…

「元号研究官」だった尼子昭彦が2018年5月に死去した後も、内閣官房ではあと1年に迫った改元に備えた準備が続いていた。誰かが業務を引き継いでいるはずだ。

新たな研究官の存在に私が気がついたのは、17年秋のことだ。尼子の行方を探す中、平成26(2014)年版の『職員録』(2013年7月時点での役職が記されている)から尼子の名前が消え、代わりに「主任公文書研究官(併)」として別人の名前が現れた。令和に代わる将来の改元にも関わるとみられるため、業務の秘匿性に配慮して、この研究官を以下「T氏」と記すことにする。

T氏の著作を国立国会図書館で検索すると、2009年以降の公文書館報「北の丸」で、尼子と同じく、公文書館が所蔵する漢籍の目録について記事を書いていた。さらに調べると、03年の中央大大学院の論文集では、中国・北宋時代の詩人・欧陽脩についての論文が掲載されていた。

中央大で03年当時に中国哲学を専門としていた教授は宇野茂彦。平成改元時に最終三案の一つを提案した東京大名誉教授・宇野精一の長男で、精一は尼子が二松学舎大大学院で学んだ時の師でもあった。

ここで、一つの線が思い浮かんだ。宇野家と元号を結ぶ線だ。平成改元に関わった宇野精一が、来たるべき次の改元に備えて、弟子を「元号研究官」として政府に送り込んだ。

そして時代を超えた今日、漢籍の名門一家は代替わりし、精一の後を継いだ長男の茂彦が、元号研究官の代替わりの際に門下生を政府に推薦したのではないか。精一の元号に懸けた思いが今日、T氏に引き継がれているのではないか。主導したのは宇野家か、それとも政府か、という因果関係はわからないが、一つの仮説を証明すべく、関係者を当たることにした。