祝ノーベル賞!私がデビュー作で「ペンローズの宇宙観」を書いた理由

熱狂的なファンからの祝福メッセージ
竹内 薫 プロフィール

3人の共同受賞ではあるが、ペンローズは、今回のノーベル物理学賞における2分の1の業績で、残りの2名が、それぞれ4分の1の業績で受賞ということになっている。最初に理論を提唱したペンローズの偉大さが、このノーベル賞の配分にも現れているのだ。

そんなペンローズだが、私は最初、ペンローズが「どの」業績で受賞したのか、理解できなかった。あまりにも業績が多すぎて、しかも、そのほとんどは数学の論文であり、実験や観測で実証されないともらえないノーベル賞には縁遠い、と思っていたからだ。

実際、20年前に私は、『ペンローズのねじれた四次元』にこう書いていた。

〈最近の数理物理学は進みすぎて、平均的な物理学者には、いったい何をやっているのか理解できないほど難解になってしまった。理論を実験や観測で検証してノーベル賞を出す、という形態は、ある意味で、物理学という学問自体の構造の変化に追いついていない〉(「増補新版」の87ページ)

つまり、ペンローズの理論は数学的すぎて、時代遅れのノーベル賞は受賞できないだろうと書いていたのだ。

それが、今日、覆(くつがえ)った。

数学的な、あまりに数学的な物理学者であるペンローズに、ノーベル賞の物理学の選考委員会は、賞を出した。時代遅れなんて言ってゴメンナサイ、ノーベル賞。いや、粋な計らいに恐れ入りました。

縦横無尽に広がる「ペンローズ・ワールド」

ペンローズの業績は、すでに述べたとおり、あまりに広大で、もちろん、ブラックホールの特異点定理にとどまらない。

「ペンローズタイリング」という、不可思議なタイルの形がある。これも数学的な業績だが、トイレットペーパーの会社がデザインを無断で使用して裁判沙汰になったこともある(おもちゃのパズルにもなっていて、私もワンセットもっている)。

スピンという、素粒子がもつ特性をネットワークにして、森羅万象を記述しようという壮大な試みもある。

あるいは、宇宙の始まりと終わりが「同じ」だと主張する、共形循環宇宙論という、哲学的にぶっ飛んだ宇宙論も構築している。まるで、仏教的な輪廻する宇宙みたいではないか。

しまいには、人間や動物の意識の根源が、脳の量子的な仕組みによるものだ、という奇想天外な理論まで提唱している。

そして、ふだんわれわれが使っている数式では物足りないのか、ペンローズは、独自の記号体系を使って数学や物理の計算をしていたりする。天才も、ここまでくると、(数学の)文字まで発明してしまうのですな。

ペンローズのグラフ記法 image by MovGP0 CC BY-SA 3.0

無限大の「自由」に遊ぶ

ともあれ、しがないサイエンス作家の私にとって、処女作の主人公がノーベル賞を受賞したことは、本当に嬉しいことであり、久々に感激した。

同じ日の日本の科学界のニュースといえば、日本学術会議の任命拒否のゴタゴタみたいな、陰鬱になる話題ばかり。

ペンローズの発想に、私は無限大の「自由」を感じる。新型コロナ、豪雨被害、学問の自由の侵害といった暗い世相を、まばゆい光で照らしてくれた。

ありがとう、ペンローズ。

まだまだ、新しい理論を作り続けてほしいな。