祝ノーベル賞!私がデビュー作で「ペンローズの宇宙観」を書いた理由

熱狂的なファンからの祝福メッセージ
竹内 薫 プロフィール

ブラックホールの特異点定理

ざっくりと、今回の受賞理由を解説していこう。

受賞理由となった論文は、1965年のものだ。今から55年も前に出されたものだが、いまだにブラックホールを勉強する学生たちが、避けて通ることのできない基礎的な論文。

特異点とは、エネルギーが1ヵ所に集まってしまい、無限大のエネルギー密度と無限大の温度になってしまった、地獄みたいな点のこと。

アインシュタインの重力理論では、時間も空間も曲がっている。その曲がり方が極限までいくと、特異点が生まれる。

1965年当時、アインシュタインの方程式から出てくる特異点は、完全な球状のブラックホール、言い換えると、(ちょっと難しい言葉だが)均一で等方なブラックホールからしか出てこないと思われていた。でも、現実宇宙のブラックホールは、ちょっぴりゆがんでいるかもしれない。

特異点というのは、あくまでも特殊な仮定の下でのみ出てくる可能性であり、現実の宇宙には特異点は存在しないだろう。もしかしたら、ブラックホールだって数学的想像の産物であり、現実には存在しないのではないか──。みんな漠然と、そんなふうに考えていた。

横断歩道の閃き

だが、ペンローズは、友人のイゴール・ロビンソンとロンドン市内を歩いていて、横断歩道で「閃(ひらめ)いた」。

ふつうの人々のように歌手や映画やゲームの話ではなく、彼らは一般相対性理論を楽しく語り合っていた。そして、ペンローズは一心不乱に計算を始めた。

ゆがんでいようがいまいが、どのような仮定をしようが、時空の曲がり方が極限まで高まれば、必然的に特異点が生まれることを数学的に証明してしまった。現実に特異点が存在する……そのまわりは、ブラックホールになっている。

つまり、この宇宙には「あたりまえ」にブラックホールが実在する、という結論になる!

その後、1970年代にブラックホールの候補が見つかり、人類は、つい最近、ブラックホールの輪郭を撮影することに成功した。もはや、ブラックホールの実在を疑う科学者はいなくなった。

だが、すべての「発端」は、ペンローズの1965年の論文だったのだ。

2019年に撮影されたブラックホールの輪郭(Credit: EHT Collaboration)

ノーベル賞の粋な計らい

今回、ノーベル物理学賞を同時受賞した残りの2名の物理学者は、銀河の中心にある超巨大ブラックホールを観測した人々だ。

まあ、この宇宙には無数の銀河があるわけで、そのそれぞれの中心には、超巨大ブラックホールがある。宇宙はブラックホールだらけ、といっても過言ではない。