ネギ1本1万円で売る男が“ネギ”を選んだ理由は…「味にこだわりある人がいないから」!?

なぜネギ1本が1万円で売れるのか?(4)
清水 寅 プロフィール

なぜネギだったのか?

そんなとき、嫁さんの実家がある山形県の天童市で、親戚のおじさんから愚痴を聞かされます。農業に元気がまったくないのだと。年寄りの農家しかいないので、「あんたが元気にしてくれ」とまで言われた。すぐその気になってしまう性格です。

「ようし。じゃあ、俺が山形の農業を元気にしてやろうじゃないか!」

それまで、さまざまな業種を体験して、自信もあったのです。自分なら、農業だって簡単に成功させられる。またたく間に日本一だと(そんな甘い世界ではないと気づくのに、ほとんど時間はかかりませんでした)。

それでも1年間は悩みました。家族も親戚も反対した。天童市で話を聞いても、新規就農で成功した例がほとんどない。

実は、周囲に説得されて、一度はあきらめたのです。ところが、悔しくてひと晩泣いたらスッキリして、翌朝には「やっぱりやる!」と宣言。「お前、昨日、号泣してなかったか?」と言われましたが、「知ったことか」です。もう肚(はら)は決まった。

会社を辞め、天童市に移り住んだのが2011年3月。30歳のときです。

イケイケのムードのまま移住したので、まず考えたのは「3年で天下とろう!」ということでした。3年で日本一になれなかったら、あきらめると。

『ねぎびとカンパニー』ネギ畑
 

じゃあ、どんな作物なら、3年で日本一になれるのか? スーパーを何軒もはしごして研究しました。

山形県の名産といえばサクランボ、ラ・フランス、リンゴといった果物で、天童市にもたくさん農家があります。「樹液の流れがわかる」みたいな達人もいる世界で、さすがにこのジャンルで勝てるとは思えない。農作業の経験すらないわけですから。

コメのように機械化が進んでいる作物も避けようと思いました。機械化されていたら、大規模農家が圧倒的に強いし、機械を導入するためには資金力も必要です。実績もないのに、金融機関からお金を借りられる自信がなかった。

それに、機械化が進んでいなければ、人力でやるしかない。作業がしんどいぶん、やりたがる人は減る。機械化されていない作物のほうが、ライバルは少ないはずです。

そこで、栽培期間に注目しました。小松菜やレタスといった野菜は1ヵ月半ぐらいで収穫できます。畑に植わっている期間が短いぶん、災害や病気にやられるリスクが低い。逆にいえば畑に長く植わっている野菜はリスクが高いので、農家から避けられる傾向がある。

ネギは半年も畑に植わったままだから、そのぶんライバルも少ないんじゃないか? そう考えたわけです。