毎年9月になると、日本の科学界に明るいニュースが飛び込んでくる。それは他でもない、「裏のノーベル賞」とも称される「イグノーベル賞」の発表があるからである。
今年の授賞式は新型ウイルスの関係で、異例のオンライン開催となったが、例年通り日本人の受賞者が出た。京都大学霊長類研究所の西村剛准教授が国際研究で音響学賞を共同受賞。これで14年連続、日本人がイグノーベル賞を受賞したことになる。
ではまず、西村准教授が受賞した研究について解説しよう。受賞理由は「ワニをヘリウムガスに満ちた空間に入れ、ドナルドダックのような声で鳴かせたこと」。一見、何がすごいのか分からない “馬鹿げた” 研究だが、実に意義深い内容となっている。
これまでずっと、ワニがどのように声を出しているのかは謎に包まれていた。声帯に類する発声器官を持ち、ヒトと同じく声道内の空気を振動・共鳴させて声を出しているのか、それとも体内の器官を叩いて音を出しているのか、その正確なメカニズムが分かっていなかった。そしてその謎を探るために、西村准教授ら研究チームは、ヘリウムガスでいっぱいの空間にワニを入れることにした。
一般に、ヘリウムを吸うと声が高くなる「ドナルドダックボイス現象」は知られているが、これはヘリウムの比重が空気より軽いために起こる現象である。軽い気体の中では共鳴する音の周波数が上がるため、我々の耳には高く聞こえる。
しかしヘリウムの中でも、物体を叩いて出す音の高さは変わらない。なぜなら、それは「共鳴した音」ではないから。すなわちヘリウムの中では、空気を振動させて出した笛の音は高くなるが、物体を叩いて演奏する打楽器の音は高くならないのである。