津波に呑まれた女の子の霊を、古刹の住職はどう導いたか

津波が生んだ霊体験⑥
奥野 修司 プロフィール

「ヨッちゃんの手、離したの! ごめんなさい、わぁ~~」と、女の子は取り乱したように言った。「お母さんに手を離すなって言われてたのに、ヨッちゃんの手を離しちゃった! ごめんなさい。お母さん、怒ってるよね、怒ってるよね!」

住職夫人が「怒ってないよ。手を離しちゃったんだね。でも、怒ってないよ」とやさしく声をかけたが、女の子はただひたすら「ごめんなさい、ごめんなさい」と謝り続けた。そしていきなり「怖い、水が来る~!」と叫んだのだ。

そのとき、女の子の記憶が弟の手を離した瞬間に戻ったのだろう。その映像をシンクロするように高村さんも見ることになった。

場所は不明だが、学校のようだったと言う。弟は小学校1年生で、その年の春には2年生になる予定だった。姉の女の子は3つか4つ上だから、小学校4、5年生だろう。女の子はキッズ携帯を持っていたようだという。

このあたりは高村さんの記憶がはっきりしないのだが、3月11日の午後2時45分に大きく揺れた後、心配した母親から女の子の携帯に連絡が入ったのかもしれない。「弟の手を離しちゃだめよ。迎えに行くから待ってて」と言われたような気がするという。もともと普段から弟と手をつないで登下校していたから、女の子もそうすることは当然と思ったに違いない。

生徒たちは、大きな揺れが収まると、避難のために教室を出て、おそらく運動場に集まったはずだ。そこで弟を見つけた女の子は、弟の手をつないで母が迎えに来るのを待つつもりだったのだろう。ところが母親は来なかった。同じことは東日本大震災ではよくあった

例えば、わが子に迎えに行くと伝えたのに、行こうとしたら途中の橋が崩落して通れず、あるいは道路が陥没していて行けなかったといったことがたくさんあった。おそらくこの女の子の母親も、何らかの理由で行けなかったのだろう。やがて津波が来るという情報が入って、子供たちは急いで逃げたに違いない。高村さんは言う。

「手を離しちゃダメだよと言われていたから、女の子は逃げるときに、弟の手を引いて一緒に逃げたんです。見えたのは林の中でした。2人は斜面のようなところを駆け上がって逃げたのですが、ハッと気がつくと後ろから黒い塊のようなものが追っかけてきました。女の子にはまだそれが何か分かりません。

逃げる背中から、恐ろしい声が聞こえてくるのです。津波に飲み込まれるときの断末魔、バリバリバリと津波で樹木が倒される音……。誰かが叫ぶ声も聞こえてきます。阿鼻叫喚の地獄でした。気になって後ろを振り向こうとするのですが、『後ろを振り返るな! 前だけ見て走れ』という声が聞こえました。でもすぐさま、『うわぁぁ!』と叫ぶ声。次々と津波に飲み込まれたのでしょう。女の子は歯を食いしばって後ろを振り返らないように、弟の手をつないだままひたすら前を向いて走っていました」

 

まだ小学1年生では、姉と一緒に走るだけでも大変なのに、津波に追われながら坂を駆け上がるのは体力的にも限界だったに違いない。弟は「もう走れない」と言った。疲労困憊で足がもつれて走れなくなったのだ。息も上がってふらついていたから、何かにつまずいたのだろう。転んだ拍子に弟は姉の手を離してしまった

女の子はそのまま走り抜けて一旦立ち止まったが、後ろを振り返ると、弟が津波に呑み込まれる直前だった。思わず「あっ!」と声を上げたが、恐怖心で足が反射的に前に向かっていた。