津波に呑まれた女の子の霊を、古刹の住職はどう導いたか

津波が生んだ霊体験⑥
奥野 修司 プロフィール

住職の奥さんが手を差し出した

住職らの目には高村さんが泣いている姿が映るが、高村さんが見る映像はそうではなかった。泣いている少女の服は破れ、両足は血にまみれ、靴が片方だけなかった。足の裏は泥と血で赤黒くなって痛々しく、何かに引っ搔かれたのか、少女の顔にはざっくりとした深い傷があった。高村さんは思わず涙があふれてきたという。それでも手を差し伸べられず、ただ少女を見ているしかなかった。

声が出せない高村さんは、「この女の子の周りにはたくさんの大人がいるのに、誰も手を差し伸べてくれない。どうして? お願いだから、この子に手を差し伸べてあげてよ」と叫びそうになった。そんな願いが通じたのか、金田住職といっしょに見守っていた奥さんがたまらず彼女のそばにやってきて、「どうしたの? お母さんだよ」と両手でやさしく手を撫でていた。しかし――。

「実際はすぐに奥さんが駆けつけてくれたんですが、あのときの私には時間の感覚とか概念とかがないものですから、永遠のように感じました。あのときの時間の長かったこと。待っても待っても来てくれなくて、なんで大人はこんなに情けないんだろうと思うと、もう私の体をあげちゃおうかなと思いました」

これまで金田住職がメインで夫人はサポート役だったが、場合によっては夫人もメインで向き合う必要があることが明らかになってきた。これ以降、子供の霊が憑依したときは、住職夫人がお母さん役を果たすことになるのだが、これはその最初のケースだった。

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ぼくは、「ワカナの父」が憑依したときにも、彼女が同じように「私の体をあげたい」と言っていたのを思い出した。

「高村さんが体をあげたら、憑依した霊はずっとそこにいられるんですか?」

「う~ん、たぶん無理でしょうね。魂が私の体に定着するかどうかは、昔の心臓移植みたいなもので運次第なんです」

「では、うまく定着する人もいるわけですね?」

「います」

「そうなったらどうなるんですか?」

「元の肉体の魂はそばにいますから、二重人格と診断される方もいます。もちろん二重人格はそういう方ばかりではないのですが、たまにそういう方とすれ違うとドキッとします。私も病院に行けば、きっと何らかの診断名がついて入院でしょうね」

 

津波にのまれた小学生の悲劇

女の子がその手にしがみつくのを見て、高村さんは胸をなで下ろした。

「わぁぁぁ~、お母さん~!」

「怖かったね。どうしたの」とお母さん役の住職夫人がやさしく声をかける。

「お母さん、どうして、どうしてこなかったの?」

女の子の目からは涙が溢れ、しゃくるように言った。

「ごめんね、ごめんね。お母さん、迎えに行けなくてごめんね」

「わぁ~、怖かったのに! 怖かったのに、待ってたのに」

「ごめんね、お母さんが悪かったね。もう怖くないからね」

住職夫人がそう言うと、女の子はいきなり「ヨッちゃんの、ヨッちゃんの手を……、わぁ、ごめんなさい!」と母に取りすがって何度も何度も謝った。

いきなり女の子が謝罪を始め、そのうえ「ヨッちゃん」という名が飛び出してきて、事情を知らない住職たちは怪訝そうにしていたが、とにかく様子を見ながら女の子の話に合わせるようにした。