当時、金田住職は「カフェ・デ・モンク」という"移動傾聴喫茶"で、被災地を巡っていた

津波に呑まれた女の子の霊を、古刹の住職はどう導いたか

津波が生んだ霊体験⑥
宮城県の古刹・通大寺では、人間に「憑依」した死者を成仏させる「除霊」の儀式が今も行われている。30人以上の霊に「憑依」されたことのある高村英さんと、その霊を成仏させた通大寺の金田諦應住職。二人に取材を続けてきたノンフィクション作家の奥野修司氏が、今回も高村さんに体験を聞いた。

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小学生の女の子の溺死体験

2012年6月23日、除霊の儀式は夜だけではないらしく、この日の高村さんは昼下がりの明るい時間帯に通大寺へやってきた。当時、金田住職は「カフェ・デ・モンク」という“移動傾聴喫茶”で定期的に被災地の集会所などを巡っていて、そのボランティア仲間の僧侶や、通大寺で結婚式をあげたという外国人たちと一緒に、高村さんの到着を待っていた。

カフェ・デ・モンク

この日は土曜日ということもあり、何か打ち合わせでもした後なのだろうか。それとも、金田住職にとっても高村さんのような除霊は初めての体験だったから、親しい仲間にこの事実を伝えたいと思ったのだろうか。いずれにしろ、この日の除霊の儀式には、通大寺に集まった人たちも立ち会うことになった。

通大寺の居間で金田住職と向き合った高村さんは、「今度は小学生で、9歳か10歳くらいの女の子です」と、分かっている限りの情報を伝えた。高村さんの様子がいつもと違うのを感じたのだろうか、金田住職は彼女にやさしく声をかけた。彼女に憑いていたのは、まだ10歳くらいの女の子だったのだ。

「子供はかわいそうだなぁ……。英ちゃん、泣いてるのか?」

なんとか泣かないでいようと必死に堪えていた高村さんは、「ギャン泣き(赤ちゃんが泣き叫ぶ様子)ですね」と無理に笑顔を作って涙を見せまいとした。

住職が高村さんからひと通り聴き終わると、ボランティアの僧侶たちも一緒に本堂へと向かった。いつものことだが、本堂に入るときは緊張するという。高村さんには別次元の世界に入っていく感覚なのだそうだ。

「英ちゃん、やれっか?」

「はい、やれます」

それは高村さんの体に憑依させる合図にもなる。そのひと言で、高村さんの魂が体の外に放り出され、そこへ入れ替わるようにして女の子の魂が入ってきた。そして、今回も溺死体験から始まったのである。

溺死体験は、高村さん自身が実際に溺死するようにのたうち回りながら苦しむのだから、それを見ている金田住職らにすれば気が気でなかった。何とかしようと思わず手を差し伸べるのだが、高村さんに憑依した女の子はぴしゃりとその手をはねのけるのだ。

なすすべもなく見守るしかなかったが、やがて高村さんの体は落ち着き始めた。見守る人たちもほっとした瞬間、今度はいきなり大声で泣きだした。それも、少女の甲高い声で本堂の外にまで響くような音量だった。

泣き声が次第におさまってきたかと思うと、今度は「お母さ~ん!」と、迷子になった子が母親を探すような涙声で叫び始める。住職が慌てて少女(高村さん)の手を取ったが、「お母さんじゃなきゃ嫌だ!」と、拒絶するように振り切り、再び「お母さ~ん! お母さ~ん!」と泣き叫んだ。

「お母さんとはぐれちゃったの?」

住職が声をかけるが、泣きじゃくるばかりだった。

「お母さんじゃなきゃ嫌だ、嫌だ! お母さんは、私を迎えに来るって言ってたもん。お母さ~ん!」