東大教授・宇野重規が警鐘を鳴らす!独裁的指導者が望まれる危うさ

「民主主義の危機」が来た
宇野 重規 プロフィール

トランプ大統領の誕生

同年11月の米国大統領選も、ポピュリズムを考える上で重要なきっかけとなりました。

公職についたことがなく、政界の完全なアウトサイダーであった不動産王ドナルド・トランプは、多くのメディアや専門家の予想を裏切り、選挙戦に勝利します。

 

目立ったのは、ヒラリー・クリントンら既成の政治的エリートに対する、ときにフェイク・ニュースを含む激しい攻撃と、特定の国からの移民を犯罪者扱いし、メキシコ国境に壁を建設するといった差別的な主張でした。

自らに批判的な『ニューヨーク・タイムズ』やCNNを罵倒し、「アメリカ第一主義」を唱えて世界を困惑させるなど、これまでのアメリカ政治の常識を覆したトランプですが、結果として大旋風を巻き起こし、大統領に当選したのです。

さらにこの大統領選では、ロシアによるサイバー攻撃やSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を通じたプロパガンダによる、トランプ勝利のための大規模な介入があったとされます。

もし仮に、一国の選挙が他国によって容易に操作されるとすれば、民主主義にとって由々しき事態です。

政治家自身によってマスメディアが攻撃されるなか、国際的な情報操作が加わり、いったい何を信じればいいのか、「フェイク」とそうでないものに境界線があるのか、深刻な疑念が生じることになりました。

多くの専門家の予想を裏切って大統領選に勝利したドナルド・トランプ(photo by gettyimages)

トランプは民主主義的か?

一方、選挙戦を通じて、このようなトランプを熱狂的に支持する人々の存在が浮き彫りになったのも明らかです。

「ラストベルト(さびついた地域)」と呼ばれる旧工業地帯において、かつてアメリカの産業を支えた労働者たちは、地域の衰退と自らの前途への不安に苛まれています。

彼らにとって、既成政党への失望やグローバル化への反発の感情を受け止めてくれる政治家は、トランプしかいなかったのです。

「アメリカを再び偉大にしよう(メイク・アメリカ・グレイト・アゲイン)」という訴えかけは、そのような人々の心の琴線に確実に触れました。

社会に潜在する不安や不満をすくい上げるのが民主主義の役割であるとすれば、トランプの選挙戦もまたそのような役割をはたしたといえるのではないでしょうか。

それが言論への抑圧や排外主義などと結びついたところに、問題の複雑さがあるのです。

ポピュリズムの問題点

ポピュリズムという言葉、あるいはこの言葉が指すような現象はけっして新しいものではありません。

既成政党やエリートへの不信が募った時代に、不満を持った人々が既存の中間的な組織(政党や労働組合、利益集団、宗教組織など)を飛び越して、カリスマ的な指導者を直接支持し、それが大きな政治的な変動を引き起こすことは、20世紀の南米諸国などでもしばしば見られました。

しかし、2016年のブレグジットやトランプ現象が注目されるのは、現代グローバリズムを先導するとされる英米両国でポピュリズムが起きたからです。

既存の枠組みにとどまる限り、自分たちの不満や不信は無視されるばかりだと考えた人々が、一人の指導者に思いを託すこと自体は否定されるべきではないでしょう。

とはいえ、そのことが、代表制の機能不全を前提とするものであり、より日常的なレベルで自分の考えを政治と結びつけていく回路の不在を意味するならば、民主主義にとってけっして幸福なことではありません。

ポピュリスト指導者たちは、人々のこのような不満や不信を土壌に力を拡大します。やがては自分だけが国民を代表するとして、他の政治家や組織を抑圧することも少なくありません。

2016年のポピュリズムは、これらの問題を大きくクローズアップしました。