近年、世界的に独裁的な指導者が目立つ(photo by gettyimages)

東大教授・宇野重規が警鐘を鳴らす!独裁的指導者が望まれる危うさ

「民主主義の危機」が来た
政治学者の宇野重規氏によれば、民主主義は現在さまざまな危機に直面しています。とりわけ、ポピュリズムの台頭と独裁的指導者の増加という世界的な潮流は、民主主義を根底から覆しかねません。なぜ世界中でこのような現象が起こっているのか? 予約注文殺到中の最新刊『民主主義とは何か』(10月20日発売)の一部を先行公開します。

「瀕死」の民主主義

現代は民主主義がさまざまな危機に直面している時代です。いずれも大きな危機であることに加え、それらが同時に押し寄せているのが特徴です。結果として、民主主義はいわば「瀕死」の状態にあるといえます。

「民主主義はこの苦境を越えられないのではないか」「もはや民主主義の時代は終わったのではないか」という懸念を、私たちは日々、耳にしています。

しかしながら、過去においても民主主義は何度も危機を乗り越えてきました。というよりもむしろ、民主主義はつねに試練にさらされ、苦悶し、それでも死なずにきたというのが現実に近いでしょう。

いつの時代にも民主主義の批判者はいました。それでも民主主義は続いてきたのです。

宇野重規東京大学教授(写真:福田秀世)

そうだとすれば、今回の危機についても、民主主義が自らを変容させ、進化させるきっかけとする可能性を否定できません。

そのためにもまず、現在、民主主義がいかなる危機と向き合っているのかを冷静に見定める必要があるでしょう。

 

ポピュリズムの台頭

ポピュリズムという言葉が、世界的な話題になったのは2016年でした。大きな転機になったのは、同年6月のブレグジットです。

議会主義の祖国ともいわれた英国で国民投票が行われ、EU(欧州連合)からの離脱を決めたことは、世界に大きな驚きを与えました。

背景にはさまざまな要因がありますが、離脱キャンペーンにおいて、「EUを離脱すれば、分担金を国民保険サービス(NHS)に回せる」といった多くの虚偽の情報が飛び交い、それが投票の結果に少なからぬ影響を与えたことは間違いありません。

ブレグジットの背景としてしばしば指摘されるのが、中高年の白人労働者層を中核とする、いわゆる「置き去りにされた人々」の不満です。

産業構造の転換などによって経済的に苦境に立たされた人々が、首都ロンドンや移民・外国人労働者への反発を強めるなか、「EU離脱によって英国の自己決定権を取り戻し、主権を回復する」という訴えかけはきわめて魅力的に響きました。

ポピュリズムと民主主義の難しい関係

虚偽の情報によって扇動された側面があるとしても、そのような「置き去りにされた人々」にとって、EU離脱はまさしく「民主主義の勝利」だったのです。ここにポピュリズムと民主主義の難しい関係が表れています。

たしかにポピュリズムは、不正確な、ときに虚偽の情報に踊らされ、扇動された大衆による非合理的な決定として理解される側面があります。

さらに、自らの権力獲得のために、そのような大衆を操作し、あるいは迎合する政治家の政治的スタイルを指してポピュリズムと呼ぶこともあります(その場合、「大衆迎合主義」とも訳されます)。

しかしながら、政治学者の水島治郎が指摘するように、このようなポピュリズムを民主主義への脅威としてのみ捉えるのは一面的でしょう(『ポピュリズムとは何か』)。

ポピュリズムには既成政治や既成エリートに対する大衆の異議申し立ての側面もあります。その意味では、ポピュリズムを単純に民主主義と対立させるわけにもいかないのです。

むしろポピュリズムには民主主義と相通じる部分があり、ポピュリズムが提起した問題に対して、民主主義も正面から取り組む必要があるのです。