ビジュアル重視の伝統

20世紀の料理が皆地味だったのかと言えば、そうとも限らない。雑誌やレシピ本の料理もビジュアル重視で、「彩り」を大切にすることは、料理メディアが繰り返し伝えてきた家庭料理の心構えの一つだ。

また、美しい盛りつけは、日本の伝統でもある。おせち料理は、いかに彩りよく盛りつけるかも重視される。弁当もキャラ弁以前から、プチトマトやブロッコリーを彩りで加える人は多かった。

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料理の周辺にも、ビジュアル重視の伝統は広がっている。

日本料理の世界では、昔から器を重視してきた。戦前に会員制料亭「星岡茶寮」の料理を指揮した北大路魯山人が、自作の器を使うなどして盛りつけを一つのデモンストレーションにしてから、器重視の傾向は強まっている。

魯山人の影響を受け、昭和戦後を代表する料理人となった「吉兆」の創業者、湯木貞一は、料理と器、部屋のしつらえにまで心を配り、日本料理店の高級志向に拍車をかけた。

湯木が大切にしたのは、季節感を採り入れる懐石料理の考え方である。懐石料理の形を整えたのは、戦国時代に活躍した千利休である。彼は、もてなしの場である茶室に、掛け軸、生け花で季節を表現し、器を作らせて料理を盛りつける伝統の基礎を作った。

器をめでる趣味は戦国武将たちにもあって、そうした彼らの美学は2005年から漫画雑誌『モーニング』で連載が始まり、2011年にNHKでテレビアニメ化された『へうげもの』(山田芳裕)などで描かれている。

室町時代には、大名たちは将軍をもてなす「御成り」のため、1年も2年も前から書院や門まで新築した。皿とその中の料理に凝るどころではないのである。

こうしたビジュアル重視の伝統は、カラフルに色づけしたコメなどを美しく飾る春日大社などの神饌にまでさかのぼれると言われる。