初代葱師・清水寅氏

凡人には努力がすべて…!? 1本1万円のネギを売る男のいじめられっ子少年時代

なぜネギ1本が1万円で売れるのか?(2)
「1本1万円のネギが売れている」そう聞くと驚く人も多いのでは?
『ねぎびとカンパニー』社長・清水寅氏は7社を経営する社長を脱サラし、2011年から農業を始めた中途参入組。しかし今では『ねぎびとカンパニー』のネギは1本1万円の価値が付くほどに…。

注目書籍『なぜネギ1本が1万円で売れるのか?』から毎日連載企画!
第2回では、寅氏の少年時代、現在の信条にもつながる考えにたどり着いた経緯を紹介します。>>今までの連載はこちら!

一日に20時間は働いた

「あ、もう5時だ。早く畑に行かなきゃ」

飛び起きて早朝のネギ畑に出て作業をしていると、不思議なことに空が明るくなってきません。逆にさっきより暗くなった気がする。「いったいどうなってんの? 天変地異か?」と首をかしげるうち、ようやく夕方の5時であることに気がつく。農業を始めた1年目は、そんなことが頻繁に起こりました。

毎日20時間は働いているから、いま朝なのか夕方なのかも区別がつかない。起きている時間は、すべて畑か作業所にいました。夜10時に帰宅して11時に寝て、深夜1時にはもう畑に出たこともあった。真っ暗な畑でライトをつけて雑草取りをしているので、近所では完全に変人扱いされていました。

 

それまでは何をやってもうまくいく人生だったのに、農業では何をやってもうまくいかない。思い入れが強いぶん、失望も大きいのです。悔しくて、畑でしょっちゅう泣いたり怒鳴ったりしていました。だから、ますます変人扱いされる。

まあ、読者のみなさんも「一日20時間労働」と聞いて、ちょっと引かれたと思います。本人としては「死んでもいい」くらいの気持ちで働いていました。

忙しい理由はたくさんありました。全部で1町歩(約1ヘクタール、正方形の土地だったら100メートル×100メートル)という、初心者には無謀なほど広い面積に、いきなり挑戦したこと。人手は自分と、弟子として面倒を見ていた親戚の二人しかいなかったこと。アルバイトを雇うという発想すらなかったこと。農業自体が初めてで、次から次へとトラブルが降ってきたこと……。

雑草は抜いても抜いても、なくなりません。手がグローブのように腫れ上がりました。とにかくすさまじい量で、一日に2列しか終わらない。全部で1町歩もありますから、最初の場所に戻ってきたときは、またビシーッと雑草におおわれている。

ようやく収穫の時期をむかえると、忙しさはさらに加速しました。深夜1時までネギをむいて、トラックに積み込んで、自分で集配センターまで運ぶ。センターが開く午前4時までの2時間だけ、車内で仮眠をとります。納品したら畑に戻って、また収穫作業を始める……。そんな生活を続けていた。