死後の世界は近くにある… 津波の犠牲者に「憑依」された女性の体験

津波が生んだ霊体験⑤
奥野 修司 プロフィール

男は、ただただ「わあぁぁ~」と泣き続けた。

住職から、光の世界に導くと言われたのだろう。泣くだけ泣いたらおとなしくなり、諦めたようにその場に正座する姿が見えたと彼女は言う。

「娘のところに行けるから納得したというわけではないですね」とぼくが尋ねると、高村さんは「まったく納得していないです」と言った。

 

死に臨んだとき、死を覚悟できるかどうかは「納得」できるかどうかだといわれるが、本当は「諦め」なのかもしれない。がんで死にゆく人を見ても、死ぬのは嫌だ嫌だと死を受け容れようとしなかったのに、体力が奪われていくにつれて、最後は生に執着する力もなくなって諦めの境地に入っていくが、そのようなものかもしれない。高村さんは言った。

「受け入れるしかなかったのでしょうね。津波から1年も経っていることや、自分が死んでいることを知り、『あなたも親なら』と言われたら、やはり諦めて受け入れるしかなかったのだと思います」

「死者の魂」を押しのける感覚

「光は見えないか? 探しなさい」と金田住職は言った。

男は必至に光を探していたが、「見えない。人が多すぎて何も見えない。真っ暗だ」と困ったように金田住職に言う。

「これから、お前と娘と奥さんのことを思ってお経を詠むから、光を探しなさい」

しかし光は見つかないようで、「ワカナ、ワカナ~」と、まるで迷子になった子供のように娘の名前を叫ぶのを高村さんは聞いた。そのたびに住職の読経が止まり、男に語りかける。

高村さんも立ち上がって一緒に光を探し始めたが、そのとき、初めて自分がいた世界を見て「地獄か!」と思ったという。

「よく目を凝らすと、辺り一面が人の海でした。いわば、満員電車の中にいるみたいに、死んだ人たちがひしめき合っているのです。鳴き声、叫び声、すすり泣く声、ヒステリックに叫ぶ声、ぶつぶつとつぶやく声、声、声、声……。人間ではない声も聞こえてきました。彼1人でこの人垣をかきわけて進むのは難しいと思い、手助けをしようとその男性の横に並びました。人を、というより(死者の)魂ですが、押しのける感覚は今も残っています。なぜか泥だらけのベビーカーもありました。それを踏みつけるようにしてしばらく進むと、ようやく風を感じる場所に出たのです」

「風を感じる場所?」

「ええ、どう表現したらいいのか分かりませんが、例えて言うなら、暗闇だった地下を通って、ようやく地上に出たという感じでしょうか。そこは明るくて、風が感じられる場所でした。そうそう、追い風でしたね。そこに出ると、男性はその風に押されるようにして、光のほうへ、光の方へと進んでいったんです。それを確認すると、私は急いで自分の体に戻りました」

彼女が意識を取り戻すと、その場にいた全員が無言で彼女を見つめていた。予想もしなかった展開に精根つき果てたのだろうか。

通大寺からの帰り道、彼女は喉が潰れたように声が出なくなっていたので、なんとか水を飲もうとしたが、逆に咳き込んで戻してしまった。

その後、彼女は数日間、熱を出して寝込んだという。

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