死後の世界は近くにある… 津波の犠牲者に「憑依」された女性の体験

津波が生んだ霊体験⑤
奥野 修司 プロフィール

金田住職らは、彼女がいきなり畳の上に倒れたので心配そうに見守っていた。

「本人は津波から1年経っていることを知らなかったのですか?」

「だから溺死からスタートなのです。下半身がない兵隊さんの場合は、自分の死を納得していましたが、心残りがありすぎたので、やはり死ぬところからスタートしたんですね。この男性は、そもそも自分が死んだのも知らないのですから、死を受け入れていません。それが1年も経っていることにようやく気づき、急に現実が襲ってきたみたいです」

 

男は若かったような気がすると彼女は言った。娘のワカナは小学生だったのかもしれない。サラリーマンというより、体格が良く強面で、ちょっとやんちゃな雰囲気があり、まだ二十歳になるかならないかの若い時分に結婚したような印象だったそうだ。

「納得できない」霊との対話

「苦しくないか? 私の言う意味が分かるか?」と金田住職。

「分からない、暗い……。ここはどこだ? 俺は死んだのか?」と男は矢継ぎ早に尋ねる。

「あなたは死んでいる」

「そんなはずはない! 俺には体がある、手足がある。ワカナを迎えに行かせろ!」

「その体はあなたの体ではない。その体から出て行きなさい」

「うるせえ! ワカナはどうなった? 死んだのか? 生きてるのか? 」

金田住職はじっと聞いていた。男は「俺を迎えに行かせろ」と何度もしつこく言った。

それを聞いていた高村さんは、溺死体験でぐったりしていたせいか、一時は自分の体をくれてやろうかと思うほど投げやりになっていたという。そこへ、金田住職の毅然と言い切る声が聞こえてきた。

「お前は死んでいるのだよ。他にもたくさんの人が死んだのだ」

「本当に死んだのか? じゃ、今こうやって話しているのは何だ!」

そんな押し問答が続いたあと、男はようやく観念したように声を落とし、「俺はやはり死んだのか? 津波で? 他に何人死んだのだ?」と弱々しく言った。

金田住職が「2万人死んだ」と言うと、男は「なに2万人!? そんなに死んだのか」と絶句したあと、「俺の、俺のワカナはどうなった?」とすがるように言った。

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「分からない」

「俺はそれさえも知ることができないのか」

「そうだ、受け容れろ!」

男はそれを聞くと号泣した。「なんでだよ、俺を行かせろよ! 娘を迎えに行かなきゃいけないんだ。この体があるなら行けるだろう! ああぁぁ~」と、あたりかまわず悲壮な声を上げたが、もう以前の勢いはなかった。

「親なら分かるだろう。この人(高村さんのこと)にも親がいる。自分の娘がこんなことになると知ったら、どんな気持ちになる? お前も親なら、この人を親の元へ返せ」