死後の世界は近くにある… 津波の犠牲者に「憑依」された女性の体験

津波が生んだ霊体験⑤
奥野 修司 プロフィール

憑依した霊は津波に呑み込まれたのだろう。死者の霊とリンクする彼女も、同じように津波で溺死しようとしている場面で幕が上がったのだ

もちろんこれは彼女の視点からのストーリーであって、金田住職とは時間軸も空間軸も違うそうだから、二人が見た世界は異なっているかもしれないが、ここでは高村さんが体験したストーリーを中心に物語を進める。

 

「私が溺れて死ぬと、少し経ってから私の体に別の魂が完全に入りました。そして私の魂が追い出されたのです。肉体を失うと、真っ先に何を失うかというと声を失うんです」

見たり聞いたりできるが、自らしゃべることができない状態のようだ。

「死者の霊が憑依するには、死ぬという儀式が必要なんですか?」

「おにぎりが食べたいと言った男の子の場合は、そういう体験は一切ありませんでした。ある人とない人の違いは……、わかりませんね」

「死後の世界」の身近さ

憑依が完了したのだろう。それまでの荒々しかった呼吸が落ち着いたと思うと、突然、本堂中に響くような野太い男の声で叫び始めた。

「ワカナ! ワカナぁぁ~~!」

その叫び声は彼女にも聞こえていたが、溺死体験の後だからフラフラで、ただ見ているだけで精一杯だったと高村さんは言った。

「口の中に入った泥や砂を吐き出したくって、何度も嗚咽を繰り返していました。耳や目にも泥が入っていて、そのうえ冷たくて重たくて、今にも死にそうでした。いや、私は溺死したんですよね。死後の世界はあると知っていましたが、こんな近くにあったのかと驚きました」

死後の世界で溺死とは理解しかねたが、もう一つ分からないことがあった。

「こんな近くにあった? どういう意味ですか?」

「昔から私は、亡くなった方たちの魂と共存しているのが当たり前だったので、死後の世界はないと思っていたのです。だって死者がそばにいるわけですから。つまり、死後の世界というのはなくて、単純に肉体を失った人がこの世にいて共存していると思っていたのです。ところが、亡くなり方の状態によっては……、例えば自殺するとか、殺されたとか、なにかの理由があってこの方たちが留まる死後の世界という場所があることに初めて気がついたのです」