三陸海岸を行脚する金田住職ら

死後の世界は近くにある… 津波の犠牲者に「憑依」された女性の体験

津波が生んだ霊体験⑤
宮城県の古刹・通大寺では、人間に「憑依」した死者を成仏させる「除霊」の儀式が今も行われている。30人以上の霊に「憑依」されたことのある高村英さんと、その霊を成仏させた通大寺の金田諦應住職。二人に取材を続けてきたノンフィクション作家の奥野修司氏が、前回に続いて高村さんの体験を聞く。

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入れ替わるように次の霊が......

下半身がない兵隊の除霊が終わると、金田住職は精も根も尽き果てたようにぐったりとなり、座っているだけで精一杯だった。儀式を始めてすでに5、6時間は経っていただろう。住職は次の日、被災地の仮設住宅を訪ねる予定があったので、とにかくどこでもいいから早く体を休めたいという思いでいっぱいだった。

高村さんはといえば、読経が終わった頃から体に異変が起こっていた。下半身がない兵隊が彼女の体から出て行ったのと入れ替わるようにして、別の霊が憑依しようとしていたのだ。憑依されて体を乗っ取られないようにと必死に堪えていたが、「もう無理!」と思い、慌てて金田住職に「次の人が出てきます!」と叫んだ。

「震災関係で亡くなった人かと思います。お願いします。出します!」

ゆっくりと説明している余裕もなかった。

映画館で映画を見終わって、さぁ帰ろうと立ち上がったら、突然、新たな映画が始まったようなものだと、彼女は語っている。

「兵隊さんを送り出して、自分の肉体に自分の魂を戻してホッとしたと思ったら、いきなりです。体を鷲づかみにされて、ベリベリと剥がされるような感覚というか、強い力でドンと押されて心臓が飛び出したような衝撃というか……」

金田住職は、誰が出てくるのかわからず怪訝そうに見守っていた。そうしているうちに、彼女は意識を失ったかと思うと、喉元をかきむしったり、畳の上をのたうちまわったりし始めた。息苦しいのか、何度も咳き込み、よだれを垂れ流していた。何かを吐き出そうとしているらしく、何度もえずいたが、彼女に何が起こっているのか誰も分からない。

金田住職は津波のあと、鎮魂のため被災地をまわった

金田住職は彼女の肩をつかむと、「英ちゃん、大丈夫か!」と、奥さんとかわるがわる声をかけながら、必死に状況を把握しようとしていた。

彼女は溺れかけていたのだ。もちろん実際に溺れていたわけではないが……。

「突然でした。口の中、耳の中、穴という穴に泥水が入ってきたんです。息ができないどころか、吐き出すこともできない。周囲は真っ暗な水の中で、最初は水の中にいることさえも分かりませんでした。突然、私が地上から瞬間移動したみたいに、水の中で溺れているんです。自分に何が起きているのか分からなくて、とにかく必死に手足をばたつかせていました。あれは、初めての溺死体験でした」

「憑依されたら、いきなり水の中ですか?」

「ええ、溺れているところからのスタートでした。皆さん(死者の霊)は何が起きたのか分からないうちに死んでいるので、亡くなる寸前の場所からスタートしたり、 一番印象に残っている場面からスタートしたりします。人によって違うんです。この方(高村さんに憑依した霊)は、自分が死んだかどうかも分からない状態だったので、溺れ死ぬところからスタートしたようです」