「下半身のない海軍軍人」に「憑依」された女性の語り

津波が生んだ霊体験④
奥野 修司 プロフィール

光のある方向に向かっていく

ぼくは、「それは知りたいと思ったから彼の過去が見えたんですか?」と尋ねた。

「なるほど、過去に行くとも捉えられますね。ただ、結果的にそうなっただけで、そういうことを意識したことはないですね」と高村さんは言った。

 

「普通は内臓が吹き飛ぶような過去なんて見るだけでも辛いのだから、見たくないと思うのが普通ですよね」

「これまで見るか見ないかはコントロールできていたんです。このときはコントロールできなかったせいもあるかもしれません。だから記憶もあやふやで、強烈に感じた部分だけしか残っていません。兵隊さんのしゃべる言葉も難しかった。それに、私は死んでいるので、見える映像もひどいんです

「え、死んでいるというのは、どういうことですか?」

「兵隊さんは、私の肉体を得た魂として生きています。私は肉体を奪われて魂だけの存在です。肉体があれば、魂の自由度は比較的高いのですが、肉体を失うと魂の自由度は一気に下がって、できることは限られてきます。彼の魂は肉体を得て息を吹き返したのに、私は肉体を失って死んだ状態。さまよう霊になっているんです」

下半身のない兵隊が「あなたはどなたですか?」と金田住職に尋ねた。

「この寺の坊主です」と住職が答えると、兵隊は戦争はどうなりましたか」
聞いた。

「負けましたよ」と住職は静かに言う。

「たくさんの日本人が死んで、敗戦になりました。 70年くらい前の話です」

それを聞いた兵隊が、口から血を噴き出すのを高村さんは見た。そして、「ああああぁぁ~」と、絞るような声を上げて泣いた。「負けたのかぁ! どうして! なぜ!」

この後の2人の会話は彼女の記憶になく、ただ禅問答のように聞こえたのを覚えているという。このときの彼女には時間の感覚はないからどれぐらい経ったのか分からないが、後で住職から何時間もかかったと聞いたそうだ。

その内容は記録にはほとんど残っておらず、わずかに残されたメモの字面を辿りながら語ってくれた。それによると、金田住職は兵隊の背中を撫で、といっても実際は彼女の背中だが、「誰も悪くない。誰のせいでもない。戦争が悪かった。時代が悪かったんだ。平和な国を作るから、二度と戦争なんてしない国を作るから……」というと、下半身はない兵隊は、何度も何度も「約束してください」とすがるように言った

やがて金田住職の読経が始まった。そして熱湯(実際は冷水)をかけられると、彼女は下半身のない兵隊と一緒に光のあるほうに向かっていった

「不思議なんです。光に近づくと温かくて、下半身のない人も光の世界に近づくにつれて足ができ、自分の足で歩くんです。いや、歩くというより、風に流されるように……」

しかし彼女は、ここからさらなる地獄を体験することになる。

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