「下半身のない海軍軍人」に「憑依」された女性の語り

津波が生んだ霊体験④
奥野 修司 プロフィール

兵隊の最期を追体験させられる

男は絞り出すように語り始めた。一瞬のことで何が起こったのか分からないが、おそらく敵国による爆撃だろうと言った。自分はそのせいで負傷したが、親友で1つ年下の水島上等兵は、そんな自分を背負って逃げてくれた。ところが、次の爆撃で自分の下半身が吹っ飛んでしまった。それでも水島は自分を見捨てず、もう一度背負い直して走ってくれた――。

そこまで喋った後、男は声を詰まらせた。負傷した男を背負って逃げているうちに、さらなる爆撃で2人とも吹き飛ばされたのだという。そのせいで、男の霊は死しても自分が親友を死なせたと思い込んでいるのだ。

「彼には妻がいた、身重だと言ってたんだぁ! だから、だから俺を置いて行けと何度も言ったのに……、すまない、俺のせいだ! 俺のせいで水島は死んだのだ!」

その瞬間、高村さんは、男の兵隊と親友の水島が楽しそうに過ごしている映像が見えたという。男の記憶だろう。きっと2人は、故郷の幼なじみか、同級生だったに違いない。

通大寺の本堂

「あなたは死んでいる。わかりますか?」金田住職の尋ねる声が聞こえくる。

「わかります」

男が毅然とそう言い切ると、突然、高村さんの前に、男たちが乗った艦船が爆撃を受けて燃え上がる映像が広がったという。男の兵隊と、彼を背負った水島が死んだ場面だろうか。彼女は悲しそうに言った。

「夜の海とは思えないほど明るくて、熱かったです。肌も痛いくらい。空気が熱くて熱くて、息をすると喉から肺にかけて焼けそうでした。熱い理由がわかりました。海が燃えていたんです。重油が漏れて燃えているのか、海も船も燃えていました。兵隊さんが、膝ぐらいの浅瀬を、バシャバシャと音を立てて歩いているんです。不思議な映像でした。沈んでいく艦の甲板かもしれません。親友の足が燃えていくのが見えました。あちこちに死体が浮かんでいて、どの死体も火がついているんです。それがまた、夜の海を明るくしていました。あの油の臭い、人が焼ける臭い。今も鼻腔の奥に残っています。そして怒声、悲鳴、砕ける水の音……、怖かった」

「爆撃を受けている映像を見ながら、住職さんの声も聞こえるですか?」

「本来、私の肉体には私の魂が定着しているのに、無理やり引き離されて別の魂が入り込んだわけです。『あなたは死んでいる。わかりますか』と尋ねられると、兵隊さんは、今の自分がどういう状況を辿ってきたのかを思い出すじゃないですか。すると、爆撃を受けて燃え上がる海の映像を思い浮かべたんです。魂はつながっていますから、その映像を私も見ることができます。つまり一緒に追体験できるのです」