「下半身のない海軍軍人」に「憑依」された女性の語り

津波が生んだ霊体験④
奥野 修司 プロフィール

「おにぎりを食べたい!」と言った17歳の高校生があらわれた頃だから、2012年6月中旬だ。その日は一日中、誰かの名前を叫ぶ声が高村さんの頭の中を駆けめぐっていたという。自分の声なのか、記憶にある人の声なのか、それすらも分からない。普段なら予兆のようなものはあるのに、この日はそれすらも感じなかった。高村さんは気が気でなかったが、それでもできるだけ普通に過ごそうと、家族と一緒に買い物に出かけた。

ちょうど車で自宅に戻ってきたときだった。いきなり自分の下半身(の感覚)がなくなっているのに気づいた。その瞬間、あわや顔から地面に落ちそうになり、とっさに車のドアノブをつかんで上半身を支えたが、何かが起こりそうな気配だった。彼女は不安でいっぱいになり、「今夜は何も起きませんように、叫び声が出ませんように」と、祈るように気持ちを落ち着けたという。

しかし、夜になると不安は現実になった。息が上がり、呼吸が苦しくなり、慌てて通大寺に駆け込んだ。このときの彼女の感覚では、下半身がなく、喉から肺にかけて燃えるように熱く、内臓を引きずって歩いていたという。

憑依した男がそういう状態だったのである。

下半身のない兵隊の思い

高村さんが通大寺に電話したとき、その電話で金田住職の問いに答えていたので、この日は居間に入ることなく、寺の境内で車を降りると、両脇を家族に担がれるようにしてそのまま本堂に向かった。一人では全く歩けない状態だったという。

「下半身がなく内臓を引きずって歩いている、というのは、憑依した人が歩いているのを、高村さんが見ているという状態なのですか?」

高村さんはしばらく考えていた。こういう質問をされることはなかったそうだ。

「そうではなく……、私の体の中に、私の魂と男性の魂が一緒にあるので、2つの魂が離れていても共鳴しあうというか、つながっているんです。そうすると、彼が内臓を引きずって歩くと、それに同期するように私も感じるというか、追体験するというか……。一卵性双生児が遠く離れていても、同じ時間に同じことをするという不思議な話がありますが、それに似ているかもしれません」

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本堂に入ると、彼女はそのまま顔から床に倒れこんだ。このとき、彼女の記憶では、体を男性の魂に乗っ取られ、彼女はどこか暗い場所に追い出されたという。

「どういう男性なのですか?」

「軍服のようなものを着た男性で、25歳でした。下半身がなく、血まみれで内臓を引きずっていました。口元からも血を吐き出しながら、大声で叫んでいました。あまりにもグロテスクで、近寄ることもできなかったんです」

いきなり高村さんが、いや男性が血を吐きながら叫んだという。

「水島ぁぁぁぁ~!!」

金田住職が憑依した男性に声をかけた。すると下半身のない男は直立不動の姿勢で話そうとしたが、言葉のかわりに口から血が噴き出した。もっとも金田住職の目には見えない。

そしてようやく「自分は……」と名前を名乗ると、「すまない、水島~! 俺のせいで、貴様を死なせてしまった!」と叫んだ。

金田住職によると、帝国海軍の軍人で、広島県の呉軍港に停泊していた艦に乗っていたらしい。終戦の間際だったという。

住職が「どうしてあなたたちは亡くなったのか」と尋ねると、突然、彼女の視界に、暗闇の中で艦内作業している場面が見えたという。男が浮かべた映像は、高村さんにも見えるのだろう。