誤魔化すことをしない人

「直実はなぜ時戸に惹かれたと思いますか?」

2時間弱の映画の中では、人を好きになる過程はさほど説明的には描かれない。この作品もそうだった。観客がそれを想像するのも映画の醍醐味だが、せっかくのインタビューである。多部さんはどう解釈したのか聞いてみたかった。すると彼女は、考えをまとめようとするように瞳をゆっくりと動かし、数秒後、「私もわからないんです」と言って微笑んだ。

岩田剛典さんが演じる時戸森則 ©2020 HIGH BROW CINEMA

「単純に……ミステリアスだったからなのかな。時戸は、有名人だからなのか、『俺ってこうじゃん?』と言いながらマウントを取っている感じがしたんです(笑)。この仕事をしていると、インタビューなどで自分のことを話すのに慣れているので、時戸ももしかしたらプライベートで会った人に、『自分ってこう』って言えるのかも、とか……。直実は編集者で出版社で働いているので、人の話を聞き出すことができる人で。それを、えっと……何を話そうとしたんだっけな(笑)」

-AD-

この日は取材日で、もしかしたら似たような質問も受けていたのかもしれないと想像するのだけれど、多部さんの話し方からは、「待ってくださいね。今必死で考えていますから!」とでもいうような誠実さが感じられ、なんだかこちらが嬉しくなる。芝居もそうだ。慣れとか力技とか片手間などの、100%じゃない部分が、彼女からは一切見えない。

「だから時戸と直実は、『話したい人』と『聞き手』という関係で言うと、相性としては良かったのかもしれない。でも、彼のことは理解できないまま……。いろんな意味で、翻弄されていたんでしょうね」

また数秒の沈黙の後、頭の中を整理したのか直実が時戸に惹かれた理由をそう説明した。「ただ、直実も、後輩や叔母さんと話して、『わかるわかる』『そうだよね』と言いながらも、あまり相手のプライベートには踏み込もうとしないタイプなんです。相手のことを否定はしないけれど、肯定するときも、自分の意思とは別のところにあるような距離感で生きている。今回は、“こういう役です”というのが説明しづらいのですが、だからこそ、『人間ってそういうものだよね』と思う部分もあります」

撮影/山本倫子